2022年来日決定! 注目のダンスプログラム

 2020年に世界を襲った新型コロナウイルスCOVID-19のパンデミックは、公演の延期や中止、劇場の閉鎖など、舞台芸術界にも多大な被害をもたらした。しかし、その一方ではコロナ禍に応答し、新たな創作へ邁進するアーティストたちの奮闘ぶりも見られた。

 2022年に来日予定の2つの公演、ウィリアム・フォーサイス「THREE QUIET DUETS」と、ピナ・バウシュ「春の祭典」+ジャメイン・アコニー&マル―・アイラド『common ground[s]』も、今なお続くコロナ禍の影響を実感させるプロダクションだ。

 

静謐で機知に富む超越的なダンス

 フォーサイスといえば、舞台芸術界の最先端を行く世界的振付家として知られている。1984年から20年間フランクフルト・バレエ団の芸術監督を務め、バレエを脱構築した革新的な振付で世界に衝撃を与えた。バレエの基本だった中心軸をずらしながら、身体の中に多くの起点を想定し、ダンサー同士のコンタクトによって即興的な動きやシーンを紡ぎ出しては、超絶技巧を繰り広げた。しかし、2004年にフランクフルト・バレエ団は解散の憂き目に遭い、すぐに自らフォーサイス・カンパニーを設立して活動を続けたが、2015年に解散した。とはいえ、今もフォーサイスとダンサーたちは世界各地でオルタナティブな挑戦を続け、むしろその表現の幅を拡張している。

 2月に来日予定の「THREE QUIET DUETS」(3つの静謐なデュエット)も、フォーサイスが今最も信頼を置くダンサー5名と新たな極致を見せる公演だ。実はこの作品、前作「A QUIET EVENING OF DANCE」(2018年)が元となっている。タイトルのとおり、静謐なダンスでありながら、「豊かに満足のいくプログラム:機知に富み、予測不可能な、超越的ダンス」(フィナンシャルタイムズ)など高い評価を得た。日本にもツアーする予定だったが、コロナ禍でキャンセルとなった。その後、主要パート2編に新たな1編を加え、計3編のデュオとして再構成したのが、今回来日する「THREE QUIET DUETS」である。

Duo2015
©Bill Cooper

 1組目の「Dialogue(DUO2018)」は、ブリゲル・ジョカとライリー・ワッツのデュオ。初期バージョンの「DUO2015」は、シルヴィ・ギエムの引退公演「LIFE IN PROGRESS」で上演され、2人はその年イタリアのレオニード・マシーン賞コンテンポラリーダンサー・オブ・ザ・イヤーを受賞している。音楽のない静寂の中、聞こえてくるのはダンサーの息遣いや足音のみだが、動きのみで対話する2人の身体に自然と意識を集中できる。そのテクニックやボキャブラリー、かけ合いの妙技から、振付の無限な可能性が感じられることだろう。

 2組目の「Catalogue(Second Edition)」は、フランクフルト・バレエ団のプリンシパルでフォーサイスの長年の協力者ジル・ジョンソンと、フォーサイス・カンパニーのメンバーでもあった日本人ダンサー島地保武によるデュオだ。やはり音楽はなく、小川のせせらぎや小鳥のさえずりといった環境音がわずかに流れる。フレーズを振り移しするように連れ添って移動しながら、やがて動きのタイミングがずれたり、突然シンクロしたりといったシーンが、ユーモラスかつビビッドに展開される。

 3組目の新作「Neighbours (Part I)」では、異なるダンススタイルの融合が見られる。バレエ出身でフォーサイス・カンパニーでも活躍したブリゲル・ジョカに対し、クルド人のヒップホップダンサーであるラウフ・“ラバーレッグス”・ヤシットがデュオを踊る。ヤシットは、柔らかい関節や倒立技を連続できる腕力を武器に、B-Boy系のダンスバトルで活躍した経歴を持つ。だが、パワームーヴで背中を痛め、ヨガを取り入れるなど自らのダンススタイルを模索していてコンテンポラリーダンスと出会った。2人は「A QUIET EVENING OF DANCE」のリハーサルで出会い、互いの振付の背景をステージ上で比較したいという願望に駆られて、フォーサイスとともにこの作品を創作している。バレエ&コンテンポラリーダンスとヒップホップダンス、キャリアの異なるダンサーによる緻密で奥深く、超越的な動きのやり取りに注目してほしい。

 このように「THREE QUIET DUETS」は、究極的に静謐でありながらも、機知に富み、通常のダンスには見られない豊かな内容を持つ作品だ。近年のフォーサイス作品と比較して、最も評価の高い傑作群で、来日を心待ちにしたい。