2021年9月18日、コロナ禍に見舞われて以降、初めて海外アーティストを招聘した音楽フェスとしても注目されていた〈SUPERSONIC〉において、ZOZOマリンスタジアムのステージに立ったアラン・ウォーカー。当日は自身のグレイテスト・ヒッツ的なセットを中心にAdo“踊”やお馴染みの映画音楽なども織り交ぜたサーヴィス精神溢れるプレイで会場/生配信のオーディエンスを魅了し、しかも翌19日には急遽ゼッドとスティーヴ・アオキとのB2B2Bセットを敢行。親日家らしい3名による感動的なパフォーマンスの話題を記憶している人も多いだろう。

 18歳で発表した代表曲“Faded”(2015年)によってすぐさま世界的なビッグネームとなったアラン・ウォーカーは、思えば日本とは縁の深いアーティストでもある。もともと2017年に初来日公演を行った彼は、その“Faded”が2018年公開の映画「ラプラスの魔女」(監督は三池崇史)主題歌に起用されて幅広い方面に認知を広げ、独自リリースされた『Faded Japan EP』もヒット。同年の〈EDC Japan〉出演と初めての日本ツアーも成功させ、2019年には〈SUMMER SONIC〉に初出演して熱狂を巻き起こした。

 いわゆるトレンド~ブーム的な意味でのEDMが落ち着いたとされるここ数年にあって、アランはストリーミング指標も踏まえたワールドワイドなポップ・ミュージックの世界で最大級の成功を収めている一人だ。そもそもいわゆるEDMの音圧や展開を備えたトラックは世界的なポップ・スタンダードとして定着しているわけで、柔軟なポップネスを備えた彼の音楽性は幅広いメインストリーム系のリスナーとも相性がいい。また、本来は匿名性を意図した黒マスク+黒パーカーのヴィジュアルもアノニマスやゲーマーを想起させる現代的なカリスマ性を演出する。もちろん王道のDJ/ライヴ・アクトとしても〈Ultra Music Festival〉や〈Tomorrowland〉などの大型フェスに出演するなどパフォーマンス面でも人気と実績を誇るアランだが、SNSの累計フォロワー数が1億人を超える彼の発信力は、そうした多面的な時代のモードにもフィットしながら培われてきたというわけだ。

ALAN WALKER 『World Of Walker』 MER/ソニー(2022)

 そんな彼も2020年はコロナ禍の影響でツアー中止を余儀なくされ、必然的に制作活動に重きを置く一年となったが、そうして期間を存分に活かして完成を見たのが、このたび日本盤化された待望のセカンド・アルバム『World Of Walker』である。そこには、サブリナ・カーペンター&ファルッコを迎えたエキゾチックなムーンバートンの“On My Way”やエイバ・マックスの歌唱もヒプノティックな“Alone, Pt. II”といった2019年の大型コラボをはじめ、アランが多大な影響を受けてきたという映画音楽界の巨匠ハンス・ジマーの楽曲“Time”のリミックスのような2020年の成果、そしてギアを入れ直して連発された2021年のトラックに至るまで、初作『Different World』(2018年)以降に生まれた数々の人気チューンが贅沢に盛り込まれている。

 なかでも2021年に配信された新しめのトラックは、従来的なダンス・ミュージックの推進力よりもさらにポップな展開性を意識した舵取りになっているのが興味深い。スウェーデンのベンジャミン・イングロッソとのコラボでニューウェイヴ感も湛えたシンセ・ポップ“Man On The Moon”や、同じノルウェーのバンドであるイサックと組んだ重々しい“Sorry”、セイレム・イリースがドラマティックな歌声を披露する“Fake A Smile”、ワイノナ・オークとのメランコリックなムーンバートン“World We Used To Know”など、いずれもダイナミックなメロディーと力強いヴォーカルの牽引するソング・オリエンテッドな作風で、アルバム全体にキャッチーな起伏をもたらしている。合間にインタールードとして“Red Nexus Rising”や“Drone Wars”といったインストが配されているのも実にシネマティック。本編の締め括りでエマ・スタインバッケンが歌うエンディング・テーマのような壮麗なスロウ“Not You”は、いわゆるダンス・ヒット集では終わらない『World Of Walker』の深みを如実に示すと同時にアランの底知れぬポテンシャルを見せつけるものではないだろうか。

 なお、アルバムのジャケを構成するモザイク状の画像は、約1万5千人のウォーカーズ(ファンの総称)が投稿したセルフィーをコラージュしたもの。スマートな存在感で多くのリスナーを魅了しながら、アラン・ウォーカーの世界はこれからも拡大していくに違いない。    

 


アラン・ウォーカー
97年生まれ、英ノーサンプトン出身のDJ/クリエイター。母親の故国であるノルウェーはベルゲンで育ち、15歳頃から独学で楽曲制作を始める。YouTubeやSoundCloudを通じて楽曲を発表していき、2014年にリリ−スした“Fade”の評判を受けてソニー系列のMERと契約。翌年末の“Faded”が世界的なヒットを記録し、大型EDMフェスへの出演、リアーナやジャスティン・ビーバーらのツアー・サポートも経験する。2018年にファースト・アルバム『Different World』をリリース。以降もコンスタントに楽曲を発表しながら、たびたび来日も果たしている。2021年11月に発表したセカンド・アルバム『World Of Walker』(MER/ソニー)の日本盤が2022年1月12日にリリースされる予定。