(左から)田口智章、BON-SAN、tami、河部翔
 

神戸・大阪を中心に活動する4人組、TAMIW(タミュー)がファーストEP『Floating Girls』をリリースした。2018年の結成以降、2019年には20公演のアメリカツアーを敢行し、2020年に発表したセカンドアルバム『future exercise』が話題を呼ぶと、2021年には〈フジロック〉の〈ROOKIE A GO-GO〉出演者に選出されるなど、ジワジワと注目を集めている。

〈ポスト・トリップホップ〉を掲げる彼女たちの音楽性は、90年代から2010年代へと連なるブリストルの空気に感化されつつ、バンドフォーマットでありながらサンプリングを駆使し、そこにtamiの浮遊感と芯の強さを併せ持つ歌声が乗ることによって、現代的な〈オルタナティブ〉を体現する。

『future exercise』に続いて、tamiの実家のお寺の中にある蔵を改修したスタジオ〈Hidden Place〉でレコーディングが行われた『Floating Girls』は、よりエレクトロニックな音の割合が増え、多彩なサウンドデザインを展開。さらにアンダーソン・パークやロバート・グラスパーらとの関わりも深いプロデューサー/ラッパーのシャフィーク・フセイン(サー・ラー・クリエイティブ・パートナーズ)がゲスト参加するというサプライズもありの、注目作に仕上がっている。

また、コロナ禍においてパーソナルなテーマと向き合い、自らのルーツやジェンダーバイアスの問題などに向き合って書かれた歌詞は、表現者としての覚悟を感じさせるものであると同時に、一生活者としてのフラットな感覚が表れたものであり、〈白黒つけることだけが正解ではない〉という本作のメッセージを浮かび上がらせる。バンド結成から『Floating Girls』の制作まで、ボーカルのtamiとシンセサイザーの田口智章へのロングインタビューでTAMIWの核に迫った。

TAMIW 『Floating Girls』 Bigfish Sounds(2022)

 

レディオヘッド、ヒップホップ、ツェッペリン……多様な音楽的背景

――TAMIWの結成は2018年で、tamiさんがメンバーを集めてスタートしたんですよね?

tami「私は中高生のときに軽音部だったんですけど、そのあと長い間音楽をやってなくて」

――以前のプロフィールによると、〈研究員を辞め、2016年に突如音楽活動を開始した〉とありますね。

tami「そうなんです。大学時代の教官に〈風呂に入って蛇口を見てるときも研究のことを考えろ〉と言われていたのもあって、研究以外のことに時間をたくさん使ってはいけないと長らく思い込んでいました。研究室では、自分より優秀な人がたくさんいてしんどかったですし、音楽のことは初恋の相手みたいな感じで潜在意識にはあったけれど忘れている状態でした。

でも、本来はいろんなことに興味を持っている人間なのでストレスも溜まるし、ふとしたきっかけでやっぱり歌いたい!と思ったんです。研究員時代の後半は夜中まで研究して、そのあとに曲作りをしたりしていましたね。そうしていくなかで、たまたまバンドを組む機会があって、そのバンドはあんまりよくなかったんですけど(笑)、ビョークとかレディオヘッドにハマり直して、DTMを始めたんです。そのあとルーパーを使って一人でライブをするようになり、こういう音楽を一緒にできそうな人をちょっとずつ集めていきました」

――実際、メンバーとはどのように出会っていったのでしょうか?

tami「最初に知り合ったのはドラムのBON-SANで、そのとき行ってたボイトレの先生とソウルバンドを組んだときに知り合って。神戸には甲陽学院というジャズをやっている人が多く在籍している学校があるんですけど、BON-SANはその学校を出ていて、人間的にもこの人やったらいいなと思ったし、BON-SANと私の2人で1年くらい活動していた時期もありました。

そのあと田口くんが名古屋でやってるMuscle Soulと対バンになって、普段は対バンを観てもテンション上がらんことが多かったんですけど、田口くんたちを観たときは〈かっこいいやつおるやん〉と思ったんです。そのとき田口くんがめっちゃしゃべりかけてくれて、いきなり年齢を訊いてきたんです。〈年下だったらつぶしておかないといけないと思った〉そうです(笑)」

田口智章「初めて観た彼女のライブがすごかったんですよ。ジェイムズ・ブレイクみたいにルーパーを使って一人でライブをやってて、歌も上手いし、バイオリンも上手いし、〈めちゃくちゃかっこいい!〉と思って。それで僕から声をかけたんです」

tami「そこからすぐ一緒にやるようになったわけではないんですけど、打ち上げのときに〈コラボしたいんで、歌ってください〉と言ってくれたりした流れもあって、私のソロに参加してもらおうと思って、音源を田口くんの名古屋のスタジオで録ることになったんです。そのときBON-SANとギターのベッチ(河部翔)にも参加してもらって、〈これ、バンドにしちゃおうかな〉ってなりました」

田口「〈コラボしたい〉と言って、最初に作ったのがファーストアルバム『flower vases』(2018年)に入ってる“Protest You”で。その曲をレコーディングのときにもう一度みんなで再構成して、だんだんバンドっぽくなっていきましたね」

2018年作『flower vases』収録曲“Protest You”
 

――もともとtamiさんがイメージしていたのはビョークやレディオヘッドだったとのことですが、メンバー4人が集まった段階で方向性はどのようにリモデルされたのでしょうか?

tami「一枚目のアルバムは全部私がデモを作って、みんなにちょっとアレンジしてもらう感じだったんですけど、2020年に出した『future exercise』を作るにあたっては、もっとみんなの意見を取り入れて作りたいなと思って」

田口「その前の年にアメリカツアーに行ったんです。当時僕はギターもシンセも全部手弾きしてたんですけど、アメリカに機材を全部持って行くのは大変だから、同期を使うことになって。その結果、半月くらいのツアー中に、僕とBON-SANは曲に飽きてきちゃったんですよね。

なので、どうやったら同期演奏でも昨日と違うことができるのかって、毎日試しながらライブをするなかで、ベースが曲と関係ないテンポで動いて、BON-SANがそれに合わせてバスドラを踏んだりすることで、だんだんジャム感が出てきて。この感じをアルバムにしたらめっちゃ面白いんじゃないかと思って、それが『future exercise』に繋がっていったんです。その過程で、それまでBON-SANはドラマーとしてバンドに関わってたんですけど、もともとヒップホップが好きで、トラックメイカーでもあったので、その部分もバンドに出してくれるようになりました」

tami「バックグラウンドはそれぞれ違うので、当時は結構喧嘩もしましたね。〈ロックに寄ってほしくない〉〈ヒップホップに寄り過ぎたくない〉とか、バランスは結構考えました」

――田口さんとtamiさんはどんなバックグラウンドが大きいのでしょうか?

田口「僕はもともとtamiさんと好みが近くて、レディオヘッドもビョークも大好きだし、マッシヴ・アタックもすごく好きで、自分の核になってるのはそのあたり。僕はアンビエントを作ること、響きを作ることにいつも目を向けてるんですけど、TAMIWをやってると他のメンバーから自分にないものを吸収できて、特にBON-SANと出会って、ヒップホップを学べたのはすごく刺激になりました」

tami「田口くんとの共通項は大人になってから好きになったもので、私のルーツにあるのは小さい頃に親が車の中で聴いてたR&Bとかですね。もともと習い事をめっちゃしてて、2~3歳からバイオリンとピアノをやって、声楽も10年くらいやってたんですけど、その送り迎えの車でめっちゃ洋楽が流れてて。母はヴァネッサ・ウィリアムスとかロッド・スチュワートとか、歌が上手い人が好きだったので、そういう人の音楽が原体験だと思います」

――BON-SANはジャズとヒップホップがバックグラウンドにあるとのことですが、河部さんはどんなバックグラウンドがある方なのでしょうか?

tami「ベッチは、エリック・クラプトンを聴いてギターを始め、そのあとにレッド・ツェッペリンをはじめとした60〜70年代のロックやブルース、ソウルミュージックから影響を受けたみたいです。本来はブルージーなギターが得意という印象でしたが、TAMIWに加入してからいろんな挑戦や冒険をしてくれているし、全体のバランスを見て弾きすぎない選択をしてくれるので、彼とは曲作りもライブもすごくやりやすいですね」