〈ポスト・トリップホップ〉を掲げる関西発の4人組、TAMIWがサードアルバム『Fight for Innocence』を完成させた。昨年はファーストEP『Floating Girls』のリリース以降、夏と冬に東京で主催イベントを開催し、ego apartment、NIKO NIKO TAN TAN、BREIMENといった気鋭のバンドたちと共演。そんな積極的なライブ活動の一方、大阪堺寺院内で自ら運営するスタジオ〈Hidden Place〉での制作・録音を進めることで、アルバムはこれまで以上に開かれたポップセンスと先鋭性を兼ね備えた傑作に仕上がっている。
前作リリース時にはバンドの中心であるボーカルでソングライティング担当のtamiと、シンセ担当で録音も手掛ける田口智章にインタビューを行ったが、今回はtamiとともに、ドラマーでトラックメイクの土台を担うBON-SANにインタビュー。ポーティスヘッドやジェイムズ・ブレイクなど、UK寄りの趣向を持つtamiに対し、ピート・ロックの影響でヒップホップを作り始めたというBON-SANの趣向はUS寄りで、この2人の邂逅がTAMIWのオリジナリティーの軸となっていると言っても過言ではない。そして、〈トリップホップ〉というジャンルがUSのヒップホップとUKのエレクトロニックミュージックの邂逅に端を発したものであると考えれば、TAMIWはその〈ポスト〉に相応しいと言えるだろう。
アルバムの軸となっている“My Innocence”のテーマは〈私を私たらしめることは自分にしかできないのだと覚悟を決めること〉であり〈その唯一無二の自分をもってして外の世界とも戦っていく〉ということ。tamiは自らの武器であると同時に、コンプレックスでもあったという〈声〉と、BON-SANは自らのルーツである〈ヒップホップ〉と向き合い、自分にしかできないことを確認したうえで自らの表現をより解放し、他者と融合させることに成功した。『Fight for Innocence』はその軌跡のような作品である。
※このインタビューは2023年2月25日(土)発行の「bounce vol. 471」に掲載される記事の拡大版です
ライブを重ねレコーディングとのバランスを取った成果
――2022年は2月にEPのリリースがあり、夏と冬には東京で主催イベントもありましたが、バンドにとってどんな一年でしたか?
tami「私たちは音源を作ることを頭の片隅にいつも置いているバンドで、実際音源は去年も常に作っていたんですけど、ライブも多い一年で。たくさんライブをするタイプのバンドさんに比べるとそんなに多くはないとは思うんですけど、わりと東京にも行ったし、〈ライブを人に観てもらおう〉っていう意識はあったと思います。
柏井さん(アルバムの共同プロデュースを手掛けた柏井日向)も〈ライブを観てかっこいいと思った〉とよく言ってくださるし、音源とは違うかっこよさがあるんだなっていうのを自分たちでも自覚して、だったら〈ライブという形でももっと知ってもらいたい〉という気持ちになっていったんです」
BON-SAN「東京でライブをして、こっちに戻ってまたリハーサルをして、その反復でクォリティーを上げていく作業が去年一年はできた気がしていて。これを続けたらよりライブもよくなるし、ライブがよくなることによって、音源にもすごくいい影響が出ると思った。音源ベースで考えても、去年のライブは意味があったんじゃないかな」
――まさに今回のアルバムは録音とライブの反復による相乗効果がひとつの実を結んだ作品だと感じていて。
tami「そもそも最初のアルバム(2018年作『flower vases』)は私のデモから作った曲しか入ってなくて、その次の『future exercise』(2020年)はちゃんとバンドになりセッション的な感じで作って。でも『Floating Girls』は〈ライブでやるのを一回忘れて作ろう〉と言って作り始めたんです。
そうやってあっちに行ったりこっちに行ったりしながらバンドの形を模索してきて、やっといい感じにバランスを取れたのが今回のアルバムのような気がします」
――アルバムとしての青写真はどの程度ありましたか?
tami「私たちの曲の作り方って、家を建てる感じなんですよね。それぞれに役割分担があって、基礎工事のリーダーはBON-SANだから、まずBON-SANからビートがいっぱい来る。
そのなかから私がファーストインプレッションで〈これだ!〉っていうのを見つけるんですけど、今回は“My Innocence”になった元のビートを聴いたときに〈これだ!〉ってなった。そこから景色とかテーマが浮かんできて、それが他の曲にも波及していき、〈こういうテーマだったらアルバムとしてひとつの色になりそう〉みたいなのを、私がみんなに説明するんです」
――前作からBON-SANが楽曲の土台を担う割合が増えたと思うんですけど、今回のアルバムもそうなんですね。
BON-SAN「僕は常に何か作っていたいタイプで、みんなが前回のEPの詰めの作業をしてる間に、僕はもう次に使うものを作り出してて(笑)。
そういう役割分担が、TAMIWがいちばんきれいに回る形というか、自分の実力を発揮できる形が今の感じかなと思ってます」