
トリップホップの魅力は音と聴き手の距離が近いところ
――資料には〈ポスト・トリップホップバンド〉という言葉もありますが、やはりトリップホップからの影響は大きいと言えますか?
tami「みんなそれぞれ好みが違って、共通して〈かっこいい〉と言えるのは意外と少なかったりするんですけど、でもポーティスヘッドなどトリップホップはみんな好きで。最初は〈オルタナティブロックバンド〉と言ってたんですけど、日本で〈オルタナティブ〉って言うと、ちょっと違う感じのバンドに思われちゃって」
――グランジとかをイメージしがちですよね。
tami「そうなんです。みんなまだニルヴァーナを好きだし、なんかちゃうなと思ってて、改めてみんなの共通項を考えたら、トリップホップかなって」
――トリップホップはポーティスヘッドやマッシヴ・アタック、DJシャドウとかが源流としてありつつ、2010年代以降の音楽シーンにも大きな影響を与えてますよね。それこそ、途中で話に出たジェイムズ・ブレイクもそうだし、FKAツイッグスだったり、あるいはビリー・アイリッシュにしても、トリップホップ以降の音楽性と言うことができる。そういった流れからも感化されていると言えますか?
田口「今おっしゃっていただいた人たちは全員好きですね」
――特にどんな部分に惹かれますか?
田口「サウンド面で言うと、マッシヴ・アタックとかを聴いて思うのは、声が低かったり、ウィスパーだったりして、それはビリー・アイリッシュにも言えると思うんですけど、そのぶん距離がすごく近いというか。僕は普段手で触る感触で音を聴いてるタイプなので、音が近くに来てくれると、自分がその中に包まれてる感じがして、それがすごく心地いいし、心の距離的にも近さを感じて、そういうタイプの音楽が好きなんです。音源としては隙間があるんだけど、その隙間があることによって、自分が入る余地を与えてくれるような音楽が好きで、たとえばゴリラズとかも、TAMIWをデザインするうえですごく参考にしてるバンドのひとつです」
tami「私が思うのは、あのジャンルって独立心の強いアーティストが多いじゃないですか? だから、ジャンルで括られるのもホントは嫌って人が多そうというか、そういう独立心の感じが自分たちとも似てるかなって。あと私は単純に聴いて感動するかも好きになるかどうかの基準で、去年だとリトル・シムズのアルバム『Sometimes I Might Be Introvert』とかは、歌詞を確認しなくても訴えるものが伝わってきて、すごく感動しました」
ライブでの再現を度外視したことで、より先鋭的なサウンドへ
――新作の『Floating Girls』の制作にあたっては、何か方向性はありましたか?
田口「『future exercise』はわりとバンドの音で、一発録りも結構やったので、バンド感を出せたと思ったんです。次はスタジオで、楽器演奏だけじゃないやり方でデモを作ってみようとなり、そこからいろんな方向性に振っていった感じですね」
tami「ライブでそのままやれなくてもいい前提で作ろうっていうのは言ってました。それぞれでデモを作ったらもっと早く出来るとは思うけど、みんなが納得するように要素を入れるとなると時間がかかるし、さらにライブのことも考えるとより大変だから、一回ライブのことは考えずに作ろうって」
――結果的にバンドサウンドというよりも打ち込みのトラックベースの曲が増えていて、BON-SANのトラックメイクの役割がこれまで以上に大きくなったのかなと。
田口「そうですね、負荷は高くなったと思います(笑)。みんなでスタジオで録ったやつをBON-SANが持って帰って、サンプリングして、すごいことになって返ってきて、それをもう一回みんなでアレンジし直す、みたいな流れが多かったかな」
――去年ミュージックビデオが公開されていた“PurePsychoGirl”は、もともとtamiさんの作ったデモがあって、それをBON-SANが再構築したそうですね。
tami「“PurePsychoGirl”は今回の作品では唯一、私がまあまあしっかり目のデモを作った曲で、ビートとかはBON-SANに作り直してもらいつつ、わりと最初のデモの面影がある曲ですね。ストリングスは最後の最後にBON-SANが入れたんですけど、途中でバッと変わる感じの展開にしようっていうのは最初から思ってました」
田口「ビートが乱れるところはBON-SANと僕で話しながら作っていって、シネマティック・オーケストラのライブテイクを聴きながら、〈こういうのやりましょう!〉って」
――複数のリズムが重なる展開は、ライブでの再現性を度外視したからこそのアレンジですよね。さらに、その後に出てくる変調されたボーカルも印象的で、やはりミックスの面白さもTAMIWの特徴だなと。
tami「前までは田口くんがミックスをやってたんですけど、今回は高慶(航)さんに参加してもらって、田口くんとも相談しながらやってて、最後の最後に柏井(日向)さんにも入ってもらいました。もう一皮、二皮剥けたいと思ったときに、メンバーだけだと限界もあるから、今回は外の人にも入ってもらいたいと思って」
田口「ミックスの最後の方はよくBTSを聴いてて、彼らはオートチューンを使うじゃないですか? ああいうのを入れてもかっこいいと言えるステージに行きたくて、トリップホップとかをベースにしつつ、もっといろんなサウンドデザインができるようになれればなって」