高く評価された前作『GREY Area』(2019年)から2年、英ロンドンのラッパー、リトル・シムズが新作『Sometimes I Might Be Introvert』をリリースした。各メディアが称賛し、全英チャートで4位に輝いた本作は、すでに2021年のベスト・アルバムの呼び声が高い。
この記事では、そんな『Sometimes I Might Be Introvert』に2人の書き手が迫る。まず、ヒップホップ・ライターとして活躍する渡辺志保が、アルバムの内省的なテーマやリリックについて綴った。そして、プロデューサー/ビートメイカーとして多数の作品を発表し執筆活動も行うTOMCが、インフローによる本作の独特なサウンド・プロダクションを分析した。 *Mikiki編集部
LITTLE SIMZ 『Sometimes I Might Be Introvert』 Age 101/BEAT(2021)
心の内側と人生の内幕を曝け出し、聴く者を奮い立たせてくれる物語的ラップ
by 渡辺志保
2019年に発表した前作、『GREY Area』でも雄弁に自分自身のことを語ってみせたリトル・シムズ。“Boss”や“Offence”といった楽曲を聴けば彼女のタフさが伝わってくるし、あのローリン・ヒルが自分のツアーにシムズを帯同させたというニュースにも納得するほど、ラッパー、リトル・シムズは、凛々しくもあり包容力を感じさせる魅力にも溢れている。
2年ぶりのアルバム作品となった『Sometimes I Might Be Introvert』では、さらに自分の内面を掘り下げ、まさに〈introvert(内向的な、といった意味)〉で繊細な一面を詳らかにしているシムズ。壮大なイントロと、〈シムズはアーティストで、シンビ(リトル・シムズの本名)は一人の人間〉というリリックに惹きつけられる表題曲は、そのまま彼女の凛としたリリシストとしての佇まいを感じ取るに充分だ。
今回、シムズは収録曲のうち“I Love You, I Hate You”ではあまり関係が良好ではない実の父親について、“Little Q Pt. 2”では不遇の環境に身を置く従兄弟について、そして“Miss Understood”では姉についてそれぞれ語っている。家族との間に抱える問題を詩的に描写するその姿からは、アーティストとして成熟した部分と同時に、脆さを抱える彼女自身の内面を垣間見ることができる。
加えて、随所に挟み込まれたインタールードからは物語性が溢れ、まるで舞台の上で繰り広げられるミュージカルを観ているかのような錯覚にも陥るのだ。前作では自分の強さに焦点をあててラップしていた印象が強いが、今回はさらにナラティヴなアプローチが加わり、平坦な、そしてプレイリスト的な音楽アルバムを超えた作品に仕上がっているように感じた。
このアルバムを聴くと、シムズは自分が一体、何をどうやって伝えるべきなのか、その全てを心得ているのではないかと思わずにはいられない。“Woman”では主にアフリカをルーツとした有色人種女性たちの背景を代弁しつつ、彼女たちを導く存在としてラップする。“Protect My Energy”では、〈自分は問題を抱えているけど、弱いってわけじゃない〉〈完全な静寂が私のセラピー〉〈私の内面の平穏を邪魔しないで〉と、我々がイメージしがちなラッパー像とは正反対の言葉を紡ぎながら、芯の強さを訴える。彼女の心の内側(そして、人生の内幕も)を曝け出しながら聴く者を奮い立たせてくれるリトル・シムズのラップは、心地よく、そして非常に刺激的だ。