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 エバン自身の音楽的なルーツも今回の大河ドラマの音楽の中に反映されている。それがいわゆるアメリカのルーツ音楽であるブルーグラスの音楽や、そこで使われる楽器たちである。

 「私はカリフォルニア州のとても小さな街で生まれましたが、父親はブルーグラスが大好きでした。父は猟も好きで、カリフォルニアからモンタナ州までクルマを運転して鹿狩りによく行っていたのですが、それに付いて行くと、16時間ぐらいかかるクルマでの移動の間中、ずっとブルーグラスの音楽が流れていました。だから、アメリカのルーツ・ミュージックは本当に私の記憶の中に強く残っています。今回の大河ドラマの中では、マンドリン、バンジョーなどの楽器を使っていますが、それは私自身の音楽のルーツに繋がる部分です」

 楽器の使い方ということで言えば、ドラマを見て印象に残る音はやはりチェロである。

 「チェロは人間の声、特に男性の声に近い楽器だと言われます。それで主人公である義時の心情を語るところでは、チェロの音色をメインにしようと考えました。それに対して、ドラマ前半の動きの中心となる源頼朝の心は金管楽器を使って描き、パワフルなイメージを出したいと思いました。また政子の心情も後半には描かれますが、それには違う楽器を使うというように、楽器の使い分けも意識しています」

 その話題の流れのなかで、エバンがカメラ越しに見せてくれたのが北欧の民族楽器であるタゲルハルパという弦楽器であった。

 「これはスウェーデンの田舎、森の中に住んでいる楽器製作者が作った楽器なのです。1台1台手作りです。木製のボディに弦が張ってあり、それを馬の尻尾の毛で作ったこんな弓で弾いて音を出します。チェロと違い、もっと素朴で、不思議な音がすると思いますが、録音の時にちょっと自分でも弾いたりしていますよ」

 実はドラマを観ながら、あ、これは何の楽器だろう?と疑問が沸いて来る瞬間があったのだが、こういう楽器もあって、ドラマに華を添えているのだなと納得した。日本の中世のドラマだから、和楽器も、と普通は考えがちだが、今回は違うようだ。

 「もちろん和太鼓なども多少は使っていますが、プロデューサーからも、また演出の吉田照幸さんからも、あまり“和のテイスト”を意識しないで、音楽を書いて欲しいという風に言われています。僕自身は長唄の三味線も少し習っていたりして、日本の伝統的な音楽にも興味があるのですが、あまり和楽器は使わない方向で音楽を考えています」