せつなさ・純情・甘酢っぱさ……心にときめく大切な曲を自分なりに表現できる喜び

 〈青田典子〉の名前で初めて送り出したアルバム『blue’s』でシンガーとしての魅力を存分に発揮してみせた彼女が、およそ5年ぶりに届けた新作はカヴァー・ミニ・アルバム『柑橘系』。『blue’s』以降、コンスタントに回を重ねたライヴで披露してきた楽曲のなかから、彼女自身にとってとくに印象深いエピソードを含んだものとしてセレクトされたのは、淡い想い出がよみがえる松田聖子“制服”や村下孝蔵“初恋”、安全地帯“ショコラ”、「たまたま出会って、その言葉に胸を打たれた」というももちひろこ“and I ...”の4曲。ここ数年でさらに磨きをかけた感性と表現力で紡がれる歌声は、それぞれの楽曲に寄り添いながらとても豊かな表情をみせてくれる。

青田典子 『柑橘系』 SALTMODERATE(2022)

 「玉置との生活も12年が経ち、そのなかで本当に音楽の世界を堪能させてもらっているし、知らなかったことをたくさん学ばせていただいてる状況なんですけど、彼のなかから生まれるものや感性を共有するというか、いつもそばにいるので、なんとなくそれを肌で感じとれるようになってきたことが、私の表現のなかには確実に入り込んでいると思います。私なんてまだ拙い歌手ではありますけど、〈声〉っていうもので表現すること、身体で声を鳴らすことによって自分自身がいちばん大切に思っているものを表出できる感じ……だんだんそれが実感できるようになって。フィーリングというか、歌の世界を〈心〉で歌いたい……カヴァーはそのためのトライですね」

 せつなさや純情、そしてアルバム・タイトルにつながる〈甘酸っぱさ〉といったもので通じている4曲を〈心を込めて〉ならぬ〈心〉で歌う彼女。ライヴで“初恋”を披露したとき、かつて村下孝蔵のプロデューサーだった須藤晃さんがステージを見て泣いていた……なんていう素敵なエピソードも明かしてくれた彼女は「なんかイイことしたんだな」と微笑む。

 「自分にフィットする楽曲に出会えることが、いまとても楽しみで。自分の声質に合うとか、意外に合うとか…それこそ男性ヴォーカルの曲って自分が表現するとまったく違う雰囲気になりますし、“初恋”とか“ショコラ”とか、自分なりに表現できる喜びみたいなものを今感じてます」

 耳にした瞬間、思いがけぬときめきを覚える『柑橘系』。もっとも、いちばんときめいているのは、彼女自身なんだろう。シンガーとして進化し続けている彼女の、この先がまだまだ楽しみでしかたない。