一途な愛に命を燃やす者たちのラヴソングに人生を託して

 青田典子の新しいカヴァー・アルバム『Noriko’s selection -Innocent love-』。前作『柑橘系』と比較すれば、随分と〈ほろにが系〉の曲が存在感を増している。

 「いくつもの恋をして、失恋を繰り返し、何度も悲しみに暮れてきたであろう女性たちの人生とオーヴァーラップするような楽曲を選びました。これらの曲を聴きながら自分をヒロインに立て、慰め、浄化させることを私の同世代は誰もがしてきたんじゃないかと。“駅”(竹内まりや)や“化粧”(中島みゆき)と向き合いながら友人たちが泣いている光景を何度目にしてきたことか(笑)」

青田典子 『Noriko’s selection -Innocent love-』 SALTMODERATE(2023)

 一途な愛に命を燃やす者にとって子守唄の役割を果たしてきた名曲群に加え、シティーポップ・ブームに対する関心の顕れだという松原みき“真夜中のドア~stay with me”、そしてKinki Kidsの“むくのはね”や中島美嘉の“花束”、安全地帯“たいせつなひと”などの夫君・玉置浩二の提供曲カヴァーで本作は構成されている。

 「主人はいつも、自分から生まれてくるものを信じろ、って言うんです。何色にも染まりたくない、という彼の信念には影響を受けたし、私が歌を探求するようになったのもそれが大きい。今回は、彼の提供曲の存在をもっとクローズアップできたら、って思いがあって。“花束”に関しては、制作時に私もその場にいたという強い思い入れもあって選びました。でもどれも歌い手の表現力が試される曲ばかりですね」

 注目は“眠りの果て”などで実践されたノン・リヴァーヴ歌唱で、その歌声は〈すっぴん〉というより〈すっ裸〉な印象を抱かせるほどリアルでヴィヴィッドだ。

 「歌手一本じゃなく、ドラマなどいろんなことをやってきた人間として〈歌う〉だけでなく〈語る〉という部分も入れたかったんです。その思いの反映がリヴァーヴを外す選択になった。マスタリングの段階でもなるべく華美な音にせず、臨場感を消さないようこだわりました。じゃないと羽根がもげてしまったことの〈痛み〉が消えてしまうから」

 青田典子が送る愛とロマンの人生劇場。言葉や物語の行間にさまざまに想像を巡らせながら、豊饒な意味を汲み取ってきた世代には痛いほど響く作品だろう。

「理想とするのは〈シャンソン〉。さまざまな人生をくぐってきた者にしか伝えられない世界をめざしています。まだまだ程遠いけど、大人にならないとわからなかった喜びを拾い集めながら、私にしか語れないものを探っていきたいですね」