ヴァイオリン奏者がうたう、〈うた〉を支えるアンサンブルの妙
いろいろなかたちの〈うた〉がある。〈うた〉いたかったんだ、とすなおにうなずく。
会田桃子はヴァイオリンを弾く。ヴァイオリンだけじゃない、ヴィオラも弾くし、ヴォーカルもある。楽曲のかなりの部分はみずから手掛け。ここでは、だから、ひとりのアーティストの複数の顔をみることができる。
でも、そうじゃないんだな、たぶん。からだのなかにはいっぱいにうたが満ちていて、それをどんなふうにアウトプットするのかが試されている。ヴァイオリンでできること、ヴィオラでできること、声でできること。そうしたことを生かすために曲もつくるだろう。参加メンバーに提供してもらった曲を、スタンダード曲を、奏する・うたうのも、そうしたかたちの変奏だ。楽曲が多彩なのもおなじだ。ドラムスがはいってくれば、ビリンバウがはいってくれば、弦楽中心なら、フォーマットやそこにいるメンバー、楽器で、〈うた〉が変わってくる。
フロントにたってもいたずらな派手さはない。むしろほかの楽器の〈声〉に耳かたむけ、ささやきあい、笑いあい、ときにちょっとだけ議論する、よう。会田桃子は中心にいるし、音楽の重心になっているはいるが、〈アンサンブル〉の語を、あらためて〈おたがいに〉のあり方を想起する。弦どうしに協調するのは徳澤青弦のチェロ。鼻にかかったバンドネオンでからむのは北村聡。低音で全体を支える西嶋徹のベース。リズムってほんとは音色だよ、メロディだよね、と納得させてくれる藤本一馬のギター、林正樹のピアノ、岡部洋一のパーカッション。
声でできることから、声のできないこと、声をひろげること、もっとべつの、もっとちがったところへ、と気づくと、2枚それぞれのCDがひとつづきになっているのが腑に落ちる。ほんとはヴァイオリンとヴォーカルをまぜたかたちでも良かったかもしれないが、それはそれ。
ちょっとした口ずさみが〈うた〉へ、ことばがあってもなくても、音がちょっとずつ上下して〈うた〉へとなる。会田桃子をとおして、〈うた〉のありかをおもう。
LIVE INFORMATION
『Momoko Aida』アルバムリリース記念ライヴ
2022年8月3日(水)東京・丸の内 COTTON CLUB
出演:会田桃子(ヴァイオリン/ヴィオラ/ヴォーカル)/北村聡(バンドネオン)/林正樹(ピアノ)/西嶋徹(ベース)/藤本一馬(ギター)/徳澤青弦(チェロ)/岡部洋一(パーカッション)
https://aidamomoko.com/