私はTWICEが好きなのに、なんで弾き語りしてるのかな?
――そして、今作『ぼちぼち銀河』へと繋がっていくわけですけど、『がんばれ!メロディー』が〈バンドの1作目〉って感じだったとすると、今回は、アレンジの幅広さ含めて、より一層バラエティー豊かでカラフルになった印象です。
「今回は、初めて全曲が揃っていない状態で録音を始めたんです。私もこの3年の間で打ち込みができるようになったり、ある程度譜面も書けるようになったので、デモ音源や具体的な譜面をみんなに渡して作っていきました。自分の作品を作るんだから、アレンジとかも自分の中でイメージを固めていなきゃいけない、みたいなセルフプレッシャーもあったり(笑)。それが良かったのか悪かったのかはちょっとわかりません(笑)。もしかしたら、メンバーはむしろ戸惑っていたかも……。もちろん、上モノ以外のベーシックな演奏に関してはメンバーのアイデアを引き続き取り入れています。
エンジニアの宮﨑洋一さんの手腕も大きかったですね。アレンジ参加といっていいくらい色々なEQや処理、ミックスアイデアを入れてもらってます」
――私が以前行ったインタビュー(「レコード・コレクターズ」2022年5月号の連載〈ミュージック・ゴーズ・オン〉に掲載)で、柴田さんのルーツにはR&Bがあったり、最近はK-Popを聴いているとおっしゃっていましたが、いよいよ今作でそういう要素が出てきたように思います。しかも、〈単にリファレンスネタとして入れ込んでみました〉みたいな感じじゃなくて、ちゃんと〈柴田聡子印〉の中に溶け込んでいる感じ。
「今まで、自分の好きな音楽と自分がやっている音楽ってなんでこんなにかけ離れているんだろう、って謎に思ってたんですよ。私はTWICEが好きなのに、なんで弾き語りしてるのかな?って(笑)。
もっとバキバキ打ち込んでOKだし、踊りたければ踊ればいいのに! 自分!って思いが大きくなってきて、ようやくスキル的にもそういうアレンジを考えられるようになったので、今回やってみたって感じです。
前はもっと自分を型にはめてしまっていたんだと思います。でも、幸い?私はドーンと売れた経験があるわけでもないし、もっと自由であっていいんだよなあって気づけたというか」
――先行配信された“ジャケット”のカバーアートにも、柴田さんの中に眠っていたブリンブリンな趣味が現れていますよね。
「ははは。これは〈手作りのブリンブリン〉って感じですね(笑)」

――そういったテイストが、今まで続けてきたインディーフォーク的な美しさと融合しているのがかなり珍しいというか、ある種のコロンブスの卵的発想だなと思いました。
「ホントですかー。そう感じてくれたなら嬉しいですね」
みんな人間をやりすぎだから〈ぼちぼち銀河ing〉
――アルバムタイトルについても伺わせてください。発売の告知に際して発表されたコメントに、ある日〈ぼちぼち銀河〉という言葉が口をついて出たのに自分でハッとした、と書かれてましたけど、具体的にどんなシチュエーションだったんですか?
「本当に何気なく出てきた言葉で、アルバムタイトルにすることで後から自分で咀嚼していった、というか、今も咀嚼中なんですけど(笑)。
この2年以上、コロナ禍やらその他いろいろなことがあって、沢山の人が大変な思いをしてきたと思うんですけど、個人的には去年の夏の状況が一番つらくて。一昨年の、世界中が驚きつつもとても弱っているっていう空気から、自分という存在を煽られまくる空気感にガラッと変わったのが去年の夏頃だった気がしていて。〈お前はどう考えているんだ!〉〈今すぐ意見を言え!〉って首根っこを押さえられているような感覚で」
――わかります。オリンピック開催に際してのあれこれや、フェス開催を取り巻く状況とか……。
「どんな立場に立つにせよ、急に世界全体が勇ましくなってしまって、それがすごくキツかったですね。どこもかしこも勇者だらけで、世界の運命を背負いすぎて息切れしている感じというか、みんな〈人間をやりすぎ〉なんじゃないかと思うようになって。でもそれって、まるでこの地球上に人間とその思想しか存在しないかのような振る舞いなんじゃないかと思えて仕方なかったんです」
――なるほど。
「自分が人間として生まれてこの時代に生きているのも、もちろん音楽をやっているのも偶然に偶然を重ねた上でのことであって、すごく不思議なことだと思うんです。その感覚と、〈こういう立場の人間はこうあるべき〉っていうあの頃の空気感と全然噛み合わなくて。そういう空気が続くことで、結局それを叫ぶ側も叫ばれる側も分け隔てなく心身を削っていったと思うんです。
その緊張状態をどうすべきか考えている中で、やっぱ銀河のことを考えてそこに重ねられてきた偶然に思いを馳せるとかしかない気がしてきて。それで〈あ〜、もう、『ぼちぼち銀河』だわ〜〉ってついつぶやいたんだと思います(笑)」
――いわゆる〈宇宙規模で考える〉みたいな?
「そうそう。そこに立ち返るしかないような気がして。〈銀河〉〈宇宙〉とか言い始めるといよいよかな〜って感じもありますけど(笑)。
自分の中ではもっと実体的な感覚っていうか。この勇ましい人間たちも、本当はそれぞれありえないくらい遠い精神的な距離感で存在しているものだし、ある集団を無理やり同じ方向を向いて同じことを考えているとカテゴライズするのは根本的なところから考え直した方がいいな……と思ったんです」
――それって一見ネガティブな〈諦め〉に見えるかもしれないけど、裏を返すと本来それくらい多様かつ自由であっていいという可能性が改めて人間に向けて開かれるってことでもありますね。
「そうですね。諦めからの希望、みたいなイメージ。〈銀河〉っていうのも、逃げていく先っていうより、動詞みたいに捉えていますね。〈銀河る〉〈銀河ing〉みたいな(笑)」
――見方によってはかなりラジカルでもある。〈個人的であることがダメなもの〉みたいな空気感もあったわけだけど、もう一度〈個人であっていい〉ことの希少性から考え直していくってことでもありますね。
「そうですね。個人的であることを否定されているのにも関わらず、個人としての意見を求められるとか、別の言い方をすれば、自分勝手は許さないけど、自分を持て!と同時にも言われている。そういうジレンマから開放されるには、ぼちぼち〈銀河ing〉でしょうっていう。
それを経たら、かえって、どういう世界になっても頑張ってやるぞ!という気持ちになりました」
――歌声自体も、開放感が増したような気がしました。
「実はここ数年、自分の歌声ってどうも響かないな〜っていう意識があったんです。なんていうか、マイクにうまく乗らないっていうか。バンドのみなさんの演奏が強いってのもあると思うんですけど、なんか歌だけ存在感的に凹んでしまっているように思えて。
ちょうどコロナで時間もあったので、自分の出したい声をもう一度ちゃんと考えてみようと思ったんです。高音のコントロールの仕方とかも含めて、楽器を練習するみたいに取り組みました。前作が〈がんばれ!メロディー〉って自分に言い聞かせていたとすれば、今回は〈がんばれ!歌〉って感じでした」