〈単一ユニットによるデジタルシングル連続リリース月最多数〉というギネス世界記録を今も更新中である規格外のピアノトリオ、H ZETTRIO。彼らの待望のニューアルバム『Dosukoi SS』がリリースされる。3人が生み出す圧倒的なグルーヴと唯一無二のメロディが詰まった、熱気に満ちたライブとは異なる録音作品としての完成度が高い作品だ。本作の発表を記念して、Mikikiはゼトリオファンのタワーレコードスタッフからコメントを募った。それぞれが選んだH ZETTRIOの名曲・名演3選とともに思いを綴ってもらっている。 *Mikiki編集部

村越辰哉(新宿店)
・YOU
・関白宣言
・SWEET MEMORIES
“YOU”はファーストアルバム『★★★(三ツ星)』より。アルバム終幕のバラードです。エクストリームにガンガンいくスタイルがトリオの持ち味ですが、悪戯っぽさをグっと抑え真摯に歌心を聴かせる! ズルい! きっとボーカルが入ったらはっきりしてしまうだろうメロディがピアノでいなすようにゆらぐように奏でられ……それは聴き手が認識するメロディに心地よい曖昧さを残してくれているようで絶妙。歌詞が立ち上がってくるような情感がありつつも、実際には(ボーカルはないので)想像力が歌詞にしばられないのがよいのだ。歌心あるインストゥルメンタルの醍醐味がここに。
では、逆に歌詞が頭に入ってしまっている名曲カバーはどうだろう。彼らのカバーシリーズ『SPEED MUSIC ソクドノオンガク』を聴いていくと、物語性が強く本来ボーカルの比重が高い楽曲のインストカバーが意外にイイ! 楽曲の持つジャズサンバ要素を浮かび上がらせる“関白宣言”(さだまさし)、躍動感あるベースに導かれブルージーにピアノが転がる“SWEET MEMORIES”(松田聖子)あたりは、(勝手に)脳内再生されてしまう歌詞のイメージが、彼らの自由度の高い演奏により、ボーカルで歌われる以上に広がっていくのが快感です。
吉野真代(吉祥寺パルコ店)
・中央フリーウェイ
・Dancing in the mood
・田園
音が生きている、とはよく言ったもので、彼らの音楽を語るに不可欠。ぜひ実演にも足を運んでいただきたいですが、音源でもその意味が充分に解っていただけるはず。
私自身、椎名林檎さんきっかけで聴き始めたのですが、私含め、彼らの音楽が一過性でなく広く永くファンから愛されているのは、緩くお洒落に振りすぎず、かと思えば超絶テクのヒリヒリを感じさせ過ぎない彼らだけの塩梅が、飾らず等身大に表現され続けているからではないかと思います。
今回紹介させていただくのは、まずはこれからの季節にぴったりのこちら。“中央フリーウェイ”(『SPEED MUSIC ソクドノオンガク vol.2』より)。ここ数年はYouTubeにて毎週1曲、カバー曲を投稿しており、現在では360曲以上にも及ぶ。『SPEED MUSIC ソクドノオンガク』は、次世代に受け継いでいきたい名曲を彼ららしく解釈した、安心感と驚きを詰め込んだ企画盤です。今も色褪せぬ松任谷由実カバー、今年の夏は車窓を開けながら高速を走って聴きたい。
“Dancing in the mood”(〈Speed Music Night with H ZETTRIO Music Day! Special〉より)。続いては云わずと知れた彼らの名曲ですが、こちらは2022年6月に行われ、ゲストに菊地成孔さんを迎えた貴重な一夜の記録。大胆なパフォーマンスに圧倒され、気づけば時間が過ぎてしまうのですが、ぜひ繰り返しどうぞ。3人+菊地さんの音が融け合い球体になるような一体感と、それでいて一音より更に細かな行間に自然に意識が向く豊かな幸福感。公式YouTubeにて。
“田園”(『5+2=11』より)。最後は個人的推し、ソロ名義の1曲を。初期新しい学校のリーダーズプロデュース然り、J-POPの括りでは勿体ない、現代の日本の音楽を支えるH ZETT Mのソロ作。聴けば、やけにノスタルジックな風景が誰しもの脳内に広がるはず。キラーチューンも多いですが……真骨頂はここにあると思っています。
いつ聴いても、抜けて泣けて笑える、そばで呼吸してくれる音楽をいつもありがとうございます。これからも応援しています。