柴田聡子は〈不思議〉な人だ。その人となりがそうであるというより、〈不思議〉をキャッチする感度の高さがすさまじいという意味で、〈不思議〉だと思う。

アコースティックギターを携え、あらゆる場所で鮮烈な歌声と言葉を発射していた初期から彼女の才能におののいてきた私は、以後の音楽家としての急成熟ぶりにもずっと驚き続けてきた。メロディー、ハーモニー、歌声、言葉、その全部が類まれな才気の標となって、キラキラと光を放っている。彼女は、この世界に漂う驚きや不思議を巧みにすくい取りながらも、彼女自身もまた驚くべき存在として聴くものの生活に刺激を与えてきた。いや、刺激だけではなく、ときには(あえてこの使い古された言葉を持ち出させてもらうなら)〈癒やし〉をも運んでくれた。

2022年5月25日、前作『がんばれ!メロディー』(2019年)以来3年ぶりとなるアルバム『ぼちぼち銀河』を発表するにあたり、これまでの10年を振り返りつつ、新作の制作、タイトルの由来から、社会への眼差し、〈銀河する〉とは何か等……様々なテーマについてじっくりと話を訊いた。

柴田聡子 『ぼちぼち銀河』 AWDR/LR2(2022)

 

とにかく無垢さがスゴい『しばたさとこ島』

――デビューから10周年ということで、これまでの自作を簡単に振り返っていただければと思います。まずは、2012年のデビューアルバム『しばたさとこ島』について。

「その頃はもう、アルバムを作るっていうことの重大さが1ミリもわかってない状態でした(笑)。レコーディングの話が進む中、勝手に高知県での仕事を決めて働きに行っちゃったりとか(笑)。

これは、プロデューサーの三沢洋紀さんやエンジニアの君島結さんをはじめ、みんなで作ってもらったという感じで。〈こういうダビングをするよ〉と皆さんに言われても〈はいオッケーです〉だけ。音作りに対する自我というものが全然なかったんですよ(笑)」

2012年作『しばたさとこ島』収録曲“芝の青さ”

――それだからか、初期衝動がそのままパックされている感じがします。

「初期衝動すらなかったかも(笑)。周りの皆さんの衝動を借りて出来上がったイメージです。

実は最近、ファーストの曲をすべて譜面に起こす作業をやっていて。その頃は譜面も読めないし書けなかったから、今聴くと何をやっているのか自分でもよくわからないところが多くて。その分、曲の潔さとかシンプルさっていう意味では今よりも完成度が高いかも、とか思いました。

もう10年前ですもんねえ……とにかく無垢さがスゴい。まさに〈小さい頃は神様がいて 不思議に夢をかなえてくれた〉状態です(笑)」

 

生々しい感情をそのまま言葉と歌にした『いじわる全集』

――2014年のセカンドアルバム『いじわる全集』は弾き語り作品になりました。

「ファーストと同じチームで作ろうかって話もあったんですけど、だんだん自我が芽生えてきて、結局一人でやることにしました。その頃からいろんなミュージシャンに出会っていくんですが、ディレクションや録音を含めて自分でやっている人が多くて、私もこうあらねば!という気概が強かったんです。けど、気負いだけで実際は録音の経験も無いし、ギリギリDIYでできることとして弾き語り形式になりました(笑)」

2014年作『いじわる全集』収録曲“いきすぎた友達”

――初めて聴いた時、なんてヒリヒリしたアルバムなんだ!と思いました。これはいわゆる〈パンクフォーク〉の進化系だなって。

「まあ私は気が強い方だし、実際あの頃はかなり尖っていたと思います(笑)」

――初期作における自身の言葉の使い方についてはどう感じますか?

「自分の中から出てきた言葉がメロディーと素直に絡んでいたよなあ、という感覚があります。作為みたいなものもなかったと思うし、言葉の生々しさをそのまま歌にする、っていう。もちろん若さもあって、人間関係も含めてすごく目まぐるしくいろんな感情が湧き出る日々だったから、それを直接的な言葉で出すのも全然厭わなかったですね」