やっぱりダンス・ミュージックを鳴らしたい! 一片の迷いなくフロアに照準を定めた新作『Love Flutter』――強靭なビートの残像に2人の輝かしい未来が揺れている……

 アンビエントや環境音楽に接近した2021年の3作目『See-Voice』、カラフルでキッチュな音作りを敷いた2023年の前作『FINE LINE』と、コンスタントなリリースを続けつつ、作品ごとに明確なモードを提示してきたパソコン音楽クラブ。彼らの5作目にあたるニュー・アルバム『Love Flutter』は、これまでに増してテクノ特有の機能性やダンスの持つ快楽性を追求した作品になった。

 「前作以降、僕はよりクラブに行くようになって。パーティーという空気のなか、ラージなスピーカーを通じて鳴るダンス・ミュージックをもっと体験しなきゃと思ったんです。パソコン音楽クラブはライヴではそういう音楽をやるユニットだと改めて提示したくなったことが理由ですね」(西山)。

 「僕はホームリスニングに対応した音楽も好きなので、部屋聴きできる音の魅力とクラブ的な鳴りの気持ち良さを、新作では上手くミックスしたいと考えていました」(柴田)。

パソコン音楽クラブ 『Love Flutter』 HATIHATI PRO./SPACE SHOWER(2024)

 使用機材の面でも、『Love Flutter』は以前の作品から変化したという。

 「今回はモデュラー・シンセを中心に制作しました。〈Flutter=揺らぎ〉というテーマがあり、その揺れを出すにはアナログ機材が適していたんです」(西山)。

 「実際につまみを調整しながら音を出すアナログ・シンセの操作は普通の楽器演奏に近くて、有機的な音の動きを増やせたかなと」(柴田)。

 今回も多くのヴォーカリストたちがアルバムに参加。Cwondo、柴田聡子、tofubeats、MFS、Mei Takahashi(LAUSBUB)、Haruy、Le Makeupの7組が、ダンス・トラックの端正さを崩すことなく、浮遊感や陶酔感を楽曲にもたらしている。

 「以前からCwondoくんの歌唱はすごくダンサブルだと感じていて、“Hello”をお願いしました。柴田さんは、ドラムンベースっぽいビートの“Child Replay”を有機的に歌える人は誰だろう?と考えたとき、もともと大ファンだった彼女が頭に浮かんだんです。ダメモトでお願いしてみたら快諾してくれて。柴田さん特有のグルーヴを注入してもらいつつ、幅のある楽曲にしてくれました」(西山)。

 ラッパーのMFSはUKガラージ調の“Please Me”、シンガー・ソングライターのHaruyはレフトフィールド・テクノな“Colors”、「関西の後輩的な存在かつ、普通に大ファン」(西山)というLe Makeupはメランコリックな“Empty”にそれぞれ貢献。

 「Le Makeupくんによる“Empty”の歌詞に〈昔の部屋を思い出す夜中〉と出てくるんですけど、着実に歳を取っている自分たちにフィットする言葉だなって。今回のアルバムは成熟を感じさせるような、年相応の作品にしたいと思っていたんです。そのうえで、大人になっても感じる日常のなかでのトキメキや気持ちの高揚を表現したかった」(西山)。

 前作に引き続きLAUSBUBのMei Takahashiを迎えた“Drama”、彼らをフックアップしたtofubeatsと待望の初コラボを果たした“ゆらぎ”は、本作のハイライトと言える。

 「LAUSBUB自体にリスペクトを感じていますし、Mei Takahashiさんの声が大好きなんです。“Drama”では、電気グルーヴの“虹”にあるような、トランシーなサウンドが展開するなかで声がここぞと出てくる瞬間の上がる感覚を、僕らなりにやろうとしました」(西山)。

 「tofuさんと作った“ゆらぎ”は、僕らがラフなメロディーとトラックを投げつつ、最終的なメロディーや歌詞はtofuさんが考えてくれて」(柴田)。

 「“ゆらぎ”の歌詞は、tofuさんが僕らに差し出してくれた私信だと勝手に思っています(笑)。それくらい背中を押されるものでした」(西山)。

 〈いつも未来は きっと何か素晴らしい〉と歌われる“ゆらぎ”。その言葉を胸に彼らはどんな未来を描くのか。

 「このアルバムがこれからの軸になるので、いきなり大きく変化することは現時点では考えていません。いまはオルタナティヴなダンス・ミュージックのライヴ・アクトとしてどこまでスケールアップできるかに挑戦したい。より大きな会場やフェスに立てるよう成長するのが目標です。tofuさんはもちろんgroup_inou、DÉ DÉ MOUSEさんといった先人が、いま僕らの歩んでいる道を開拓していってくれたように、パソコン音楽クラブも次の世代のための土壌を作っていきたいと最近は考えていますね」(西山)。

左から、パソコン音楽クラブの2023年作『FINE LINE』(HATIHATI PRO.)、パソコン音楽クラブが参加した小林愛香のニュー・アルバム『Illumination Collection』(トイズファクトリー)、Cwondoの2022年作『Coloriyo』(Tugboat)、柴田聡子の2024年作『Your Favorite Things』(AWDR/LR2)、tofubeatsの2024年のEP『NOBODY』(ワーナー)、LAUSBUBの2024年作『ROMP』(極東テクノ(Far East Techno))、MFSの2024年作『COMBO』(MFS)Haruyの2024年作『CIRCLE』(SPACE SHOWER)、Le Makeupの2023年作『Odorata』(AWDR/LR2)