OUR FAVORITE THINGS
柴田聡子の名品から広がっていく、日本の音楽の新たな彩り

 それを〈インディー〉と呼ぶのは違う気がするが、メインストリームのいわゆる〈J-Pop〉と括るのも違う立ち位置で〈日本のポップス〉を歌おうとする、ある種の空気がシェアされていそうな界隈において、2024年の顔だったのは柴田聡子だろう。かねてから自身のバンド・メンバーだった岡田拓郎をプロデューサーに迎えて2月に発表された彼女のアルバム『Your Favorite Things』は、ノラ・ジョーンズの『Visions』やクレイロの『Charm』などリオン・マイケルズの仕事にも共振するムードも相まって称賛を集めた。ここでは柴田や『Your Favorite Things』参加プレイヤーの関連作、近い方向性を持った面々の注目作を紹介しておきたい。

 『Your Favorite Things』からは、弾き語りや簡素な打ち込みで同作を1人録音した姉妹盤『My Favorite Things』も誕生。収録曲の“Reebok”はtofubeatsによるリミックスが7インチ化されたが、柴田とクラブ・ミュージックとの繋がりとしては、ゲスト・ヴォーカルとして参加したパソコン音楽クラブの『Love Flutter』も印象深い。

 岡田拓郎は、映画「熱のあとに」のサントラで松丸契と千葉広樹と共にアンビエントなジャズを奏でたり、安部勇磨の『Hotel New Yuma』でベースを弾いたりする一方、プロデューサーとしては優河の『Love Deluxe』に全面貢献。こちらもブラック・ミュージックを取り入れた音作りを敷くことで、主役の歌に息吹く艶を引き立てていた。また、優河のバンド=魔法バンドの鍵盤奏者でもある谷口雄は『Your Favorite Things』にも参加している。なお『Your Favorite Things』のベーシスト、まきやまはる菜はMHRJやRYUSENKEI、ドラマーの浜公氣はSummer Eyeやmei eharaら多くのアーティストたちのライヴ/レコーディングで引っ張りだこだ。

 また、柴田の出自であるフォーク畑から、個性的な新世代の登場が相次いだのも2024年のトピック。急速に熱視線を集める井上園子、パンキッシュにノイズ・ギターを搔き鳴らす崎原ショータ、難波ベアーズ直系の漆黒世界を現出させる黒岩あすか、凛とした歌が心地良い福岡拠点の小田奈都美、カントリーやブルーグラスの色濃い眞名子新、華やかで軽やかなポップスを志向するみらんらの佳作が届いた。

 さらに『Your Favorite Things』と併せて聴きたい、シンガー・ソングライター的な歌心を丹念に磨かれたプロダクションで深化させた作品といえば、石若駿にサウンド・プロデュースを任せ、自由闊達にジャズを表現した藤原さくらの『wood mood』、石若とはSongbook trioなどでアンサンブルを紡ぐ角銅真実の室内楽的な『Contact』、サイケながらも上品な後味が魅力的だったえんぷていの『TIME』、モッズ的なグルーヴィーさを増したグソクムズの『ハロー!グッドモーニング!』などが挙げられよう。

 岡林風穂、kiss the gambler、むらかみなぎさ、ひろせむつみ……柴田と同じ女性の自作自演家に限っても、新年に飛躍しそうな予感を醸しているミュージシャンは枚挙に暇がない。絶えず更新されてゆく〈日本のポップス〉が、2025年も生活を色付けてくれるはずだ。