2022年4月からスタートし、現在放送中のTVアニメ「サマータイムレンダ」の1stエンディングテーマとして話題の“回夏”。同曲を作り上げたcadodeが、初の単独公演〈独演 回夏迄〉を5月19日に東京・渋谷近未来会館で行った。多くのファンが集ったこのライブは、“回夏”という楽曲を中心に、cadodeが描く世界をオーディエンスとともに現場で作り上げたようなコンセプチュアルな一夜だった。今回は、その当日の模様を音楽編集者/ライターである矢島由佳子が伝える。 *Mikiki編集部
cadodeの音楽を必要とする者たちの熱が会場に充満
自分を救うために手を動かしたものが、誰かを救うものになる。そんな閃光が生まれるのが音楽や創作の美しさだ。
5月19日、cadodeが初めてのワンマンライブ〈独演 回夏迄〉を開催した。〈廃墟系ポップユニット〉を掲げる彼らが初ワンマンに選んだ会場は、昨年12月にオープンした〈香港の廃墟〉がコンセプトのライブハウス、渋谷近未来会館。香港のストリートを彷彿とさせるネオンライトやグラフィックアートで囲われた場所に、cadodeのネオンサインと8本のLEDバーを設置し、過去と未来が交差するような空間を作り上げていた。
cadodeにインタビューした際、ボーカリストであり作詞を手掛けるkoshiは、「自分の救いもずっと探しているし、その救いを探すプロセスが誰かの救いにもなれば」と自身の歌詞に通底するものについて語っていた。ファンにとってまさに〈待望〉となったワンマンライブは、〈なぜ僕らは生きているのだろうか〉と問い続けるkoshiの歌詞から広がるcadodeの音楽を、自身の人生において必要としているリスナーたちの熱が会場に充満しているように見えた。
各々の楽しみ方を肯定
開演時間になると、まるで映画のオープニングのようなSEが流れ始めて、koshiが登場。1曲目は、cadodeの最新曲でありTVアニメ「サマータイムレンダ」の1stエンディングテーマである“回夏”。koshiがひとりで青色に染められたステージの中で丁寧に歌い上げる。
そしてマイクをスタンドから外して、“あの夏で待ってる”“タイムマシンに乗るから”へ。「今日は好きなように、踊ったり、もしくはうしろで腕組んだりして、楽しんでいってください」と各々の楽しみ方を肯定するMCを挟んで、“明後日に恋をする”“三行半”“ワンダー”と、前半は『TUTORIAL BLUE』に収録されている楽曲で引き込んでいく。
短い夏で、一度きりの人生で、何を残していけるのか
その後、koshiが一度ステージからはけたかと思えば、朗読が流れ始める。内容はこうだ――「また夏は回るから。そう言って前を向いたこともあれば、そう言って諦めたこともある。思えば、喪失と向き合う人生だった。あったはずのものまで勝手に失った気になっているから、喪失は増えていくばかりだった。いつの間にか他人にも自分にも期待するのをやめた。それでも一緒に夏を繰り返す仲間ができた。平日渋谷の隅っこでひっそりと集う仲間もできた。短い夏で、一度きりの人生で、何を残していけるのか」。cadodeのコンセプトを表明し、〈平日渋谷の隅っこでひっそりと集う仲間〉とこの会場に集まった人たちのことを表したこれらの言葉は、cadodeなりにファンへの挨拶と感謝を伝える粋な表現だった。
そして、koshi、eba(ミュージックプロデューサー/ギター)、谷原亮(ゼネラルマネージャー/マニピュレーター/コーラス)がともにステージに上がり、会場全体の熱量がさらに上昇していく。