〈誰かの生きづらさを熱量に変える〉廃墟系ポップユニット・cadode(かどで)。2022年4月27日リリースのメジャーデビューシングル“回夏”がTVアニメ「サマータイムレンダ」のED曲に起用され、様々な層のリスナーから大きく注目を集めたことは記憶に新しい。

2023年1月25日にはファーストアルバム『浮遊バグ』のリリースを予定するなど、活動の勢いを増している。

そんな彼らの初となる東阪ワンマンツアー〈虫の知らせ〉が、2022年11月23日に大阪・心斎橋Pangea、2022年12月10日には東京・渋谷WWWで行われた。

 

異世界で踊る

2022年12月10日、開演前の渋谷WWW。ステージ上にはcadodeのネオンサインが置かれ、会場に集まった人々はこれから始まるライブへの期待で目を輝かせていた。

照明が落ち、拍手とともにステージに現れたkoshi(ボーカル)が最初に披露したのは“浮いちまった!”。アップテンポな楽曲を楽しそうに歌い踊るkoshiの姿に、会場も呼応するように熱を増していく。

熱を保ったまま、軽やかに続く“ライムライト”は盛夏の風のようだった。エネルギーに満ち、鮮やかにきらめいていて、寂しいけれど輝いている。

ライブでは開演から最後まで、ステージ左端に置かれたモニターで楽曲のMVが同時に再生されていた。パフォーマンス中にステージに降り注ぐ青いライトと映像の青がリンクする。

cadodeの音楽は青が印象に残る・青を連想する楽曲が多い。青という色は、古くは〈違う世界〉を象徴する色だったという。魔除けや死者の色でもある青。cadodeの音楽の持つ〈異世界観〉にふさわしい色だと感じた。

“あの夏で待ってる”では、人間の持つ弱さの中にある強さを、歌だけではなくパフォーマンスの全てで巧みに表現していた。孤独を抱えていくと決めた人の強さ。孤独であることを許した人の強さ。失うことを知りながら生きていく強さ。そういったものをkoshiの強い眼差しから感じ、思わずそっと周りを見回すと、そこにいた人々も同じ眼をしていた。

MCではkoshiが「自由に楽しんで」と投げかける。踊ってもいいし踊らなくてもいい。ありのままの自分でここに居ていい。cadodeは線を引かないアーティストだと感じる。自分たちの音楽と誰か、自分たちの世界と誰かの間に、決して線を引かない。そして、あなたと誰かの間にも。

 

繊細かつ力強い歌唱、研ぎ澄まされた美しさ

アップテンポな楽曲から始まったライブは、徐々に心の奥に触れるように深みを増していく。次に披露したのは“三行半”。自分の幸せを捨ててまで誰かの幸せを願うことは、不幸なことなのだろうか。ステージで歌うkoshiの目線や仕草から果てしない空虚を感じ、ぐっと楽曲の世界に引き込まれる。

続く“たらちね”は離別を題材としている楽曲だ。ステージ上のソファーに座るkoshiをスポットライトが照らす。歌や詞に強く想いを込めながら、真っ直ぐにどこかを見つめる姿が強く印象に残っている。

静かなトーンの楽曲から鼓動のテンポで“ワンダー”へ繋ぎ、心拍が早まるように“オドラニャ”へ。“オドラニャ”は力強い歌唱が印象的だった。繊細さと力強さを併せ持ち、どちらも溢れんばかりの情感で歌いあげる。

次はどの曲を披露するのだろうと思っていると、“楽園”の幻想的なピアノのイントロが流れた。ここで“楽園”を披露する意外さに驚くが、この後のパフォーマンスへどう繋がるのか、物語がどう進んでいくのかへの期待にすぐに変化する。

cadodeのライブはいつも美しい。歌唱だけではなく、披露する楽曲の順番など、全体の構成の美しさにはっとする。さらにはパフォーマンス中のkoshiの目線や仕草、ある種の神がかった雰囲気も含め、ひとつの作品としての完成度が高いのだ。

 

誰かの光になる覚悟

koshiの声が会場に流れ、モノローグのように言葉を紡いでいく。この時聞いた、「おかしいのは私か世界か」という言葉が忘れられない。自分と世界のどちらが正気なのか。それを考え始めると、全ての輪郭がぼやけていく感覚がする。

eba(Music Producer)と谷原亮(General Manager)がステージへ現れ、cadodeのメンバー3人が揃う。koshiが楽しそうに“かたばみ”を歌い出す。それを見ているとぐっとくるものがあり、思わず視界がにじんだ。

自分以外の人間、いわば〈他人同士〉が信頼し合い、音楽を作っていること。それがこんなにも美しくて、あたたかいものであること。それは簡単に起こり得ることではないのだ。

メンバーとフロアにいた全ての人と人が音楽で遊んでいるような“IEDE”。最初のMCの「自由に楽しんで」という一言を、あの場にいた一人ひとりがちゃんと受け取っていた。音楽を通して、会話がなくとも誰かと繋がることができるのだという新鮮な驚きを感じる。

人それぞれに全く異なる形の孤独があることを歌う“誰かが夜を描いたとして”、世界の無常を感じる“明後日に恋をする”。その後に披露されたのは“回夏”のカップリング曲“光”で、ステージの上で歌うkoshiから発せられる「誰か一人でも救えるならば歌い続けたい」という熱い想いは圧巻だった。