2002年9月5日生まれ、広島県出身の八木海莉がデビューシングル“Ripe Aster”をリリースした。もともと自身のYouTubeチャンネルで、YOASOBIやずっと真夜中でいいのに。らの楽曲をカバーし注目を集めてきた彼女だが、今回の“Ripe Aster”が初のオリジナル楽曲。フレンズのおかもとえみを作曲に迎えて仕上げられたメランコリックなポップソングを、独特の透明感と情感を込めて歌いあげている。今回はライターの坂井彩花が、八木海莉のキャリアを追いながら、新曲“Ripe Aster”を解説した。 *Mikiki編集部

八木海莉 『Ripe Aster』 キューン(2022)

12歳で〈歌手になる〉と決めた少女

端正なビジュアルと透き通った歌声を持つシンガーソングライター、八木海莉。昨年にはデビュー前にもかかわらず、TVアニメ「Vivy -Fluorite Eye’s Song-」にて主人公であるVivyの歌唱を務め、〈レコチョク上半期ダウンロード部門新人アーティストランキング〉で1位を獲得した期待の新人だ。一見、人生をスマートに進めて華々しいデビューを飾ったように見えるが、その素性は意外と泥臭い。

そもそも八木が歌手をめざしたのは、小学校6年生のときに参加した東京でのオーディションがきっかけだった。彼女は、オーディションを受けて人前で歌うことの楽しさをはじめて感じたという。それまでは緊張に苛まれながら立っていたステージが、自分の表現を解放する場所へと変わったのである。

好きなことに真っすぐでやりたいことを優先する性格ゆえ、〈歌手になる〉と決めてからの勢いはすごかった。中学校3年間もスクールに通い続け、ボーカルの個人レッスンも並行。中学卒業後は単身で上京し、高校へ通うと共にボイストレーニングやオーディションの日々に明け暮れた。

しかし、現実はそう甘くはなく、オーディションで思うような結果が出ない日々が続く。そんな中で〈自分を知ってもらおう〉と始めたのが、YouTubeでの弾き語りだった。〈歌いたい曲〉を基準にして、VaundyやYOASOBI、あいみょん、SUPERCARなどさまざまなアーティストをカバー。透き通っているのにこぶしが入っているかのようなクセのある独特な歌唱で、リスナーの心を魅了してきた。自身でできることをやりきり、ようやく手に入れた大チャンスこそ「Vivy」での歌唱であり、今回のデビューなのである。

2021年に投稿したVaundy“世界の秘密”のカバー