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ロデリック・テイラーの音楽は僕の人生の一部

――この25年ほどの間に無数の歌手、演奏家がカバーしてきたレナード・コーエンの“Hallelujah”を取り上げました。

「そんなに有名な曲だなんて全然知らなかった。

2006年だったか、レコーディング中にエンジニアがこの曲を気に入ると思うと、ジェフ・バックリィのバージョンを聞かせてくれた。ああ、いい曲じゃないか、ともう一度かけてもらい、コードを書き留めた。そしてテイクを2つ録って、そのうちのひとつをレコードに入れた。それだけ。

それまで知らなかった曲だから、有名なバックリィのバージョンも作者コーエンのバージョンも僕の解釈にはまったく関係ない。歌詞についても何も知らない。コードが多くって、ピアノ曲にするのにふさわしかったんだ」

『Night』収録曲“Hallelujah”

――左手がとても低い音域を弾いて、右手のメロディーと興味深い会話をしています。

「実はテイク1で左手がもっと高い音域を弾いたんだけど、効果的ではなかったので、テイク2ではもっと低い音域を使った。そうしたら、もっと暗い感覚が加わって、うまくいった。

それで、いったん忘れていたんだけど、2019年か2020年かに聴き直して、このアルバムに合うと思った」

――ロデリック・テイラーの“Making A Way”ですが、73年にロッド・テイラーの名前でアサイラム・レコードからデビューした、このシンガー・ソングライターとの交友は、あなたに初めてインタビューしたときから聞いています。

「うん、今も彼とはとても仲がいいんだ。僕は彼がその曲を書いた30分後に聴いた。本人以外でその曲を聴いた最初の人じゃないかな」

『Night』収録曲“Hallelujah”

――実は、既に彼の曲を10数曲録音しているんですって?

「ああ、14曲録音した」

――それほどまでに、彼の音楽に惹かれているんですね。

「うん。それと、僕の人生の一部なんだよ。70年代初めの2~3年間、彼の伴奏を務めたり、デモ作りを手伝ったりした。だから、あの頃の人生のサウンドトラックでもある。

この曲はすべてがいい。バースもコーラスも。メロディーも歌詞も」

――その曲が、ローラ・ニーロの“He’s A Runner”につながります。ローラはお気に入りのシンガー・ソングライターのひとりですよね。

「60年代後半、彼女のデビュー・アルバムが出たときに買って、知った曲だ。この曲はイントロと中間部に手を入れて、ピアノ・インストの曲にした。ちょっと時間がかかったね」

『Night』収録曲“He’s A Runner”

――彼女は特徴的なピアノを弾く人ですが、あなたの解釈にソングライターのピアノ演奏はどのくらい影響しますか?

「彼女のピアノ演奏は大好きだけど、僕は自分の腕を使うわけだからね」

――“Kai Forest”などの自作曲の背景には、地方の自然から受けたインスピレーションがあるようですね。

「カイはハワイ語で〈水〉を意味するんだ。米国北部のミネソタやウィスコンシンあたりの森と湖の風景にインスピレーションを得た。

“At Midnight”の方は、ヴァ―ジニア州のスタジオで録音していたとき、毎晩、真夜中に車で森のなかを通ってホテルに戻ったんだけど、そのときの印象がもとになっている。間違いなくヴァ―ジニアという場所に影響されているね」

『Night』収録曲“Kai Forest”“At Midnight”

――その暗闇のなかの運転に、ヒッチコックのTVシリーズのなかに迷い込んだような感覚も味わったとも聞きますが、映画やTVの音楽の作曲家に好きな人はいます?

「ジョン・バリー。彼の曲を取り上げたこともあるね。(『めまい』などのヒッチコック映画の音楽で有名な)バーナード・ハーマンも」

 

“花”は僕のピアノ演奏にぴったりなんだ

――さて、“花”ですが、そもそもの沖縄の音楽との出会いは?

「85年にチャンプルーズの80年の『BLOOD LINE』、“”の入ったアルバムを手に入れた。ライ・クーダーが演奏しているアルバムだよね」

『Night』収録曲“Hana (A Flower For Your Heart) ”

――沖縄の音楽のどこに惹かれたのでしょう? メロディー? 音階? 雰囲気?

「ああ、その3つのすべてが好きだね。そして三線の演奏も。

ネーネーズとか、沖縄の他の人たちのレコードも持っているけど、この“花”は僕のピアノ演奏に一番ぴったりなんだ」

――ライ・クーダーの名前が出ました。『Restless Wind』で、ライが「パリ、テキサス」のサウンドトラックなどで取り上げたメキシコの曲“Canción Mixteca”を演奏していましたね。フォーク音楽やワールド・ミュージックに題材を求めて、自分流の作品に生まれ変わらせるという点では、あなたとライには共通点があるとも言えます。彼の作品に耳を傾けてきました?

「ああ、もちろん。彼のアルバムも、サウンドトラックもね」

2019年作『Restless Wind』収録曲“Canción Mixteca (Immigrant’s Lament)”

――ライのようなアーティストで、他にも好きな人はいますか?

「デイヴィッド・リンドリー。彼はライともよく一緒にやっているね。あと、ブルース・ホーンズビーがとても好きだ」

――さて、次の作品はどういったものになるのでしょうか?

「(アニメ『ピーナッツ』の音楽でも知られるジャズ・ピアニストの)ヴィンス・ガラルディ作品集の第3弾になるよ」

――そして、来日を待ち望んでいるファンが日本にたくさんいます。

「9月からツアーを再開するけど、今年いっぱいまでの予定しか決まっていないんだ。もう少し状況を見てみないとね」

 


RELEASE INFORMATION

GEORGE WINSTON 『Night』 Dancing Cat/RCA/ソニー(2022)

■日本盤
リリース日:2022年5月6日
品番:SICP-6456  
価格:2,640円(税込) 
日本盤書き下ろし解説

TRACKLIST
1. Beverly  ビバリー
2. Freedom For The Stallion by Allen Toussaint フリーダム・フォー・ザ・スタリオン (by アラン・トゥーサン)
3. Blues For Richard Folsom by John Creger ブルース・フォー・リチャード・フォルソム (by ジョン・クレガー)
4. Hallelujah by Leonard Cohen ハレルヤ (by レナード・コーエン)
5. Making A Way by Roderick Taylor メイキング・ア・ウェイ (by ロデリック・テイラー)
6. He’s A Runner by Laura Nyro ヒーズ・ア・ランナー (by ローラ・ニーロ)
7. Kai Forest カイ・フォレスト
8. Wahine Hololio (Traditional Hawaiian) ワヒネ・ホロリオ (ハワイ民謡)     
9. At Midnight アット・ミッドナイト
10. Pua Sadinia (Not To Be Forgotten) by David Nape プア・サディニア(ノット・トゥ・ビー・フォーゴトゥン)(by デヴィッド・ネイプ)
11. Dawn ドーン
12. Hana (A Flower For Your Heart) by Shoukichi Kina 花〜すべての人の心に花を〜 (by 喜納昌吉)
(※by 楽曲のオリジナルアーティスト)

 


PROFILE: GEORGE WINSTON
1949年、米ミシガン州生まれ。72年に初のピアノソロアルバム『Ballads And Blues』を発表。8年間のインターバル後、80年にレコーディング活動を再開。当時、新興レーベルだったウィンダム・ヒルと契約、同年にリリースされた第1弾アルバム『Autumn』が世界的な大ヒットを記録して、一躍人気を獲得。日本では『Autumn』に収録された“Longing / Love(あこがれ/愛)”が、某自動車のTV CF曲に使用され、人気が爆発。以降、『Winter Into Spring』、『December』、『Summer』、『Forest』、『Plains』、『Spring Carousel』、『Restless Wind』、ヴィンス・ガラルディのカバーアルバム2作、メキシコ湾の(ハリケーン)復興支援チャリティアルバム2作など、数多くの人気作を発表している。94年リリースの『Forest』は第38回グラミー賞の最優秀ニューエイジアルバムを受賞。これまでに1,500万枚以上のセールスを上げている。2012年に骨髄移植手術を受けるという大病に罹るが、無事全快し、現在は精力的にツアー活動をしている。