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Photo by 磯崎未菜

ルーツのプログレとフュージョン、それに現代ジャズを混ぜ合わせてみたら

――結果的に曲作りの時間が増えたこともあってか、『Bay Leaf and Singers』は4作目にして過去最大ボリュームとなる11曲入りの作品となりました。前作は現代ジャズの流れ、特にスナーキー・パピーに影響を受けた三管編成がポイントになっていましたが、新作を作るにあたってはどんな青写真がありましたか?

「自分の中ではサードの方向性でより完成度を高めたものを作りたいと思っていたんですけど、トロンボーンのメンバーが抜けることになってしまって。それでどうしようかと考えたときに、自分が中学生の頃から聴いていたプログレとか、大学で先輩に教えてもらったフュージョンとか、自分にとって懐かしい音楽も顧みつつ、それと現代ジャズ的なやり方を混ぜ合わせてみたら面白いんじゃないかと思ったんです」

――コロナ禍の中で自分のルーツにある音楽を聴き直したりもしたわけですか?

「音楽は常に新しいものも古いものも聴いていて、自分の作品に生かすようにしています。曲を作る人には新しいもの好きの人も多いですけど、そういうものをそのまま作ってしまうのは自分はあんまり好きじゃなくて、逆もまた然りというか、70年代のプログレとかは好きですけど、その感じをやり続けるのも違う。常に自分という個性を生かしながら、そのときそのとき影響を受けたものを上手くチョイスしていくことが〈表現をする〉ということだと思うんですよね。

特に今回の作品は自分のこれまでの音楽人生の集大成にしたい気持ちもあって、これを完成させることによって、次はまた全く新しいトライをしやすくしたいとも思ったんです」

――今回改めて顧みたプログレやフュージョンというのは、具体的にはどんなミュージシャンの名前が挙がりますか?

「どれだけ影響が出てるかは自分ではわからないんですけど、プログレだとイエス、フュージョンだとラリー・カールトンがすごく好きなので、その要素はどこかしらに混ざってる気がします。

プログレは〈5大プログレバンド〉と呼ばれるバンドが好きで、もっとマニアックなバンドももちろん好きなんですけど、よく聴いちゃうのは結局あの5つで」

――イエス以外だと、ピンク・フロイド、キング・クリムゾン、エマーソン・レイク&パーマー、ジェネシスが一般的ですね。その中でもイエスが好きなのはどんな部分ですか?

「僕が音楽に興味を持ったきっかけはビートルズなんですけど、おそらく5大バンドの中で一番ビートルズに影響を受けてるのがイエスで。実際にビートルズをカバーしていたりもするし、そのニュアンスを感じたから好きになったんじゃないかなって」

――henrytennisのルーツという意味では、やはりソフト・マシーンからの影響も大きいですか?

「もちろん大好きなバンドではあるんですけど、実は僕自身はソフト・マシーンからの影響をあんまり感じていなくて。僕は小6でビートルズに出会って、中学からバンドを始めて、自分で曲を作るようになったんですけど、ソフト・マシーンに出会ったのは大学生のときなので、自分の中のいろんなものがすでに固まってる時期ではあったんですよね。なので、影響を受けたかというと、自分では〈どうかな?〉と思っていて」

――いろんな音楽に影響を受けた結果、成り立ちとしてリンクする部分があるということなのかもしれないですね。ラリー・カールトンに関しては、どんな部分で影響を受けていますか?

「ラリー・カールトンというと多くの人が〈ギタリスト〉と思うだろうし、実際すごく上手いのはわかるんですけど、自分の中ではプレイよりも作曲の方がウェイトが大きくて、彼のことも作曲家として見ていて。ラリー・カールトンはよく7th(コード)を使うので、そこから和音についていろいろ考えるきっかけになったんです。

今回のアルバムも昔から好きなメジャー7thが持っている優しい多幸感みたいなものを表現しつつ、どういうスケールで他の楽器を乗せていくのかっていうのは、いろいろ挑戦した部分でした」

――ちなみに〈ギタリストとしての影響源〉で言うと、どんな名前が挙がりますか?

「ギタリストとして一番影響を受けたのはドアーズのロビー・クリーガーなんです。最初にギターを買って、ピックで弾いてみたら、すぐ落としちゃったんですよね。〈なんで三味線でもないのにこんなのを持たなきゃいけないんだろう?〉と思って、ピックを持たずに弾いてみたら、上手く弾けて、〈こっちの方がいいな〉と思ってたんです。そうしたら、当時好きだったドアーズのロビー・クリーガーも指弾きだというのを知って、〈一緒じゃん!〉と思って、そのまま指弾きで行こうと思いました。

〈落とすようなものをわざわざ持って弾くなんて合理的じゃない〉と思ったときに、爪だったら落ちないから、マニキュアを塗って強化して、爪で弾くことも多いですね」

――逆に近年の新しい音楽で言うと、どんなミュージシャンからの影響がありますか?

「アナログな質感の作品に親近感が湧くことが多くて、マカヤ・マクレイヴンはすごく好きですね。ただ、彼の音楽性に影響を受けてるというよりは、新作で毎回前作を更新していく、その姿勢に影響を受けてるかもしれないです。

マカヤ・マクレイヴンの2022年作『In These Times』収録曲“The Fours”

ハリシュ・ラガヴァンの新作(2022年作『In Tense』)もすごく良くて、聴きやすさが格段に上がっていたので、マスタリングの参考にしました。

ハリシュ・ラガヴァンの2022年作『In Tense』収録曲“AMA”

サードを作ったときの方が新しい音楽を今以上にいろいろ摂取して、〈昔の音楽のことは気にしない〉みたいな感じだったんですけど、今回はそこからの揺り戻しがあって、もともと好きなものと新しいものがいい感じに折衷できたんじゃないかと思います」