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Photo by Cat Stevens

酒とドラッグに決別、でもロックンロールであることは変わらない

──〈静かな環境〉を確保する上で、あなたが実践している〈Transcendental Meditation〉(超越瞑想:ビートルズやビーチ・ボーイズのメンバーが学んだことで有名になったインド発祥の瞑想方法)は役に立っていますか?

「間違いなく役に立っているよ。TMは1日2回、朝と夕方に20分ずつ毎日やっているのだけど、そうすることによって〈stillness(静寂)〉に毎回戻ってこられる。そういう場所を自分の内側に持っていることは、すごく大きな助けになっていると思う。瞑想をすることで不安もなくなり、表現に対する自信も持ちやすくなっているんじゃないかな」

──実は僕も、ビートルズからの影響で今春からTMを始めたんです。ティムはどんなきっかけでやり始めたのでしょうか。

「最初に酒とドラッグをやめたんだ。その頃はまだ、僕の周りではドラッグを日常的に摂取している友人たちがたくさんいたけどね。

で、10人ぐらいが集まるちょっとしたパーティーを自宅で開いたことがあって、もちろんみんなは酒やドラッグを摂取しまくっていたんだけど、僕はずっとダイエットコークを飲みながらその様子を伺っていたんだ。そうすると、彼らは全員が本当にせわしなく動き回っているんだよね。パーティーで流しているBGMも、終わりまで聴いていられないらしく、10秒毎にどんどんスキップしようとしているし(笑)。

そのうち、ある一人の友人が僕のそばに来て〈ビートルズのメンバーやデヴィッド・リンチがやっているTMって知ってる? きっとあなたに合うと思うよ〉と勧めてくれた。彼女は瞑想なんてするようなタイプに見えなかったから、ものすごく意外だった。それで自分も試しに始めてみることにしたんだ。それが2008年のこと」

──やってみてどう思いました?

「僕はビートルズやデヴィッド・リンチが生み出す奇妙な世界観が大好きなのだけど、実際に瞑想をしてみたら全て腑に落ちたというか。そうか、〈あの場所〉とつながっているんだなと感覚的に理解できたんだよね。今はドラッグをやるような連中とはつるんでいないし、自分の人生はTMをやることによって大きく変わったと思っているよ」

──80年代後半から90年代初頭にイギリスのインディーシーンを席巻したマッドチェスタームーブメントは、ドラッグと切っても切れない関係だったわけじゃないですか。もちろんシャーラタンズもそうしたシーンの中核にいたと思うのですが、今は曲の作り方からして当時とは全く違っているのですね?

「そうだね。当時とは正反対の場所にいるよ。もちろん、ロックンロールであることには変わりないけどね」

 

Photo by Cat Stevens

曲作りは人生のドキュメント

──『Typical Music』に話を戻します。レコーディングにはサイポールサンドラとダニエル・オサリヴァンが参加していますが、彼らはアルバムにどんな貢献をしましたか?

「彼らなしで本作は作れなかったと思っている。もちろん全ての楽曲のコードとメロディーも僕が書いたのだけど、二人がそこに深みを足してくれた。例えば適切なテンポ感についてアドバイスをくれたり、時には新しいコード展開を提案してくれたりね。僕がアコギで作ったデモが、彼らのアイデアや演奏力に助けられたからこそ、あのサウンドスケープへと到達することができたんだ」

『Typical Music』収録曲“Typical Music”

──しかも、ミックスエンジニアはデイヴ・フリッドマンですよね。

「サイポールサンドラとダニエル・オサリヴァンのおかげでベストな仕上がりとなった音像を、さらに一段階上げてくれたのがデイヴだった。ベラ・ユニオンのボスで、元コクトー・ツインズのサイモン・レイモンドが強烈にプッシュしてくれたんだけど、それがなくても僕の頭の中にはデイヴがイメージされていたよ」

──実際にデイヴと一緒に仕事をしてみてどうでした?

「とてもよかった。彼はNYにあるスタジオで作業をしていたと思うんだけど、僕らがまずラフミックスの音源を彼に送って、それをもとにミックスを施してもらった。それを僕らが聴いて、細かくリクエストしていく中で完成していく。そうやって1日1曲ずつ、22曲を22日間で作ってもらったんだ」

『Typical Music』収録曲“Sure Enough”

──1時間半にも及ぶリスニングタイムを退屈なしに乗り切ってもらうには、例えば曲間や曲順など様々な工夫が必要だったんじゃないでしょうか。

「悪夢だったよ(笑)。最初にアンセミックな曲を持ってきて、最後は“What’s Meant For You Won’t Pass By You”で終わるということだけは決めていて、その間をどういう流れにするか。聴き手の好奇心を保ち続けるための方法を模索した。とにかくジャンルや文脈などは気にせず、いろんなタイプの曲を組み合わせていくことによってコントラストを生み出すことが大事だと思っていたんだ」

『Typical Music』収録曲“What’s Meant For You Won’t Pass By You”

──ちなみに、ティムが〈これは完璧〉と思うダブルアルバムを挙げるとしたら?

「難しいな(笑)。さっき話題に出た『The Beatles』と『Sign O’ The Times』はマスト。それからブルース・スプリングスティーンの『The River』もいいね。ローリング・ストーンズの『Exile On Main St.』やクラッシュの『London Calling』、トッド・ラングレン『Something / Anything』なんかも捨てがたいよ」

──ありがとうございます。それにしても、シャーラタンズとして活動しつつソロでも精力的に曲を作り続けるそのパワーはどこから来るのでしょうか。クリエイティビティーを失わないために、特に心がけていることがあったら教えてください。

「自分にとって、曲作りは〈ドキュメント〉みたいなもの。自分の人生をドキュメント(文章化)してアーカイブしておきたいという気持ちがものすごく強いんだ。生きていると、書きとめておきたくなるような出来事が次々起こるし、何もないところから、存在していないものを生み出すのが楽しくて仕方がない。なので、これからも出来る限り続けていくつもりだよ」

『Typical Music』収録曲“Flamingo”

 


RELEASE INFORMATION

TIM BURGESS 『Typical Music』 Bella Union/BIG NOTHING(2022)

リリース日:2022年9月23日
品番:BELLA1311CDJ
定価:2,750円(税込)
世界同時発売/解説付

配信リンク:https://ffm.to/typicalmusic

TRACKLIST
1. Here Comes The Weekend
2. Curiosity
3. Time That We Call Time
4. Flamingo
5. Revenge Through Art
6. Kinectic Connection
7. Typical Music
8. Take Me With You
9. After This
10. The Centre Of Me (Is A Symphony Of You)
11. When I See You
12. Magic Rising
13. Tender Hooks
14. L.O.S.T Lost / Will You Take A Look At My Hand Please
15. A Bloody Nose
16. In May
17. Slacker (Than I’ve Ever Been)
18. View From Above
19. A Quarter To Eight
20. Sooner Than Yesterday
21. Sure Enough
22. What's Meant For You Won’t Pass By You