Photo by Cat Stevens

活動30周年の来日ツアーが盛り上がったことも記憶に新しい英ウェスト・ミッドランズ出身のロックバンド、シャーラタンズ。そのフロントマン、ティム・バージェスがニューアルバム『Typical Music』を完成させた。本作は、5作目のソロアルバム『I Love The New Sky』(2020年)に続く新作にして、22曲入りの超大作。コロナ禍に入ってから〈Twitterリスニングパーティー〉を開催するなど、ファンとの交流を続けてきたティムの心の痛みから愛までが表れており、まるでアバのようなポップソングからフランク・ザッパめいたユーモラスでプログレッシブな曲まで、音楽性は幅広い。さらに、ゲストボーカリストに米LAのシンガーソングライター、パール・チャールズ(Pearl Charles)を迎え、サイポールサンドラ(Thighpaulsandra)とダニエル・オサリヴァン(Daniel O’Sullivan)という特異な才能が演奏を支えている。今回は、そんな意欲作を作り上げたティムに音楽ライターの黒田隆憲が直撃した。 *Mikiki編集部

TIM BURGESS 『Typical Music』 Bella Union/BIG NOTHING(2022)

 

人生の転機を乗り越え未来へ向かうアルバム

──『Typical Music』は2枚組というボリュームであるにもかかわらず、あっという間に聴き終わりました1曲たりとも捨て曲がない、まるでビートルズの『ホワイト・アルバム(The Beatles)』やプリンスの『Sign O’ The Times』のような作品です。

「ありがとう。今挙げてくれたアルバムはどちらも最高だよね」

──今の時代にダブルアルバムを出すのってとてもチャレンジングなことだと思うのですが。

「チャレンジすることが好きなので、それ自体はとても楽しめたよ。ただ、アルバムがこのボリュームになったのは、最初からそうしようと思ったわけではなくて。水道の栓をひねったら水が溢れ出てくるように、次から次へと曲が出来ていったんだよね。

『Typical Music』収録曲“Here Comes The Weekend”

〈いつかダブルアルバムを作りたい〉という気持ちは常にあったし、その機会がたまたま今回訪れた。おそらく僕自身の人生が、この時期にターニングポイントを迎えたことも大きかったと思うな」

──人生のターニングポイントというのは、パンデミック以外にも何かあったのですか?

「うん、人間関係が大きく変わる潮目だった。例えば妻と別れたこともそうだし、それに伴い息子がどういう気持ちになったかについて深く考えたよ。それから父親が亡くなった。容態はかなり悪かったから覚悟はしていたつもりだったのだけど、やはりとても辛かったしショックだった。コロナ禍だったので、ちゃんと送り出す事すらできなかったんだよ」

──そうだったのですね。

「辛いことが続いたけど、その一方で新しい恋愛が始まり、それは自分自身にポジティブな影響を与えている。今話したような経験がアルバムに濃縮されているから、本作を聴くと過去を乗り越え新しい未来へと向かっていくような、そんな気分を味わえると思う」

──資料によれば、〈(パンデミックの間は)山ほど本を読んだし、ギターも上達した〉そうですね。特に本作にインスピレーションを与えた作品を挙げるとしたら?

「本はジェイムズ・ジョイズが面白かったな。それからケイト・フォーク(Kate Folk)という、若い作家の書いた短編集にも感銘を受けた。

本だけでなく、本当にあらゆるものからインスピレーションを受けているよ。レコードからのインスピレーションも重要だ。アナログレコードは、購入して封を開ける瞬間からワクワクするだろ(笑)?

でも、実際に曲作りに入ると他の音楽は一切聴かなくなる。制作には静かな環境が必要で、アコギを胸に抱えてその重みを感じながら、自分の内側から湧き出るものを待つ。その日その時のムードがとても重要だし、それに合う完璧なコード進行を探っていく。そうやって曲を仕上げていくんだよ」