
新潟を拠点に活動するオルタナティブR&Bバンド、E.sceneが新作EP『HEAT』をリリースした。ドラムのYoshinaoとベースのCHIPPI、ボーカルの真琴で構成されるこの三人組は、CHIPPIが手掛ける同期と生演奏のグルーヴが絡み合うスタイルで現在人気を拡大してきている。今年3月にはEP『Found me』をリリースし、同名の自主企画イベントも成功させたばかりだ。
前作から僅か8か月で届けられた今作は、これまで以上に生演奏の緻密なグルーヴが際立った作品だ。しかし声ネタのようなコーラスの入れ方など随所にDTM的なセンスがあり、ヒップホップ以降のループ感が感じられる瞬間もある。それは現行ジャズともリンクするようなものであり、一言で語れないような複雑な魅力に繋がっている。
雪国・新潟から届いたこの熱気溢れるユニークな作品は、いかにして生まれたのか? 今回はE.sceneと同じく新潟に住む私、アボかどがその裏に迫った。そして今後の展望は?
内から外へ放つ〈HEAT〉
――結構早いスパンで届いた新作ですが、制作期間としては前作が終わってから作った形ですか?
CHIPPI「そうですね。前回のレコーディングが終わって完成した後からデモを作って、自主企画※をやったぐらいから三人で取り掛かりました。レコーディングしたのは8月ぐらいでしたね」
――プレスリリースに掲載されたコメントには〈今作では、E.scene の音楽を生み出す中で、一番内側にあるものを外側に向けて解放することができました〉とありましたが、それはどういう部分で感じましたか?
CHIPPI「前作の制作期間にはライブができなかったこともあり、ライブでやるイメージよりも〈自分の内面的なところをバンドで固めて音源で消化する〉みたいな意識が強かったんですよね。
でも、今作はライブを意識したのと、自分たちの音楽を聴いてくれている人と接する機会が増えたことが大きくて。テーマ的には自分の周りで起こっていることを書いているのに変わりはないんですけど、気持ち的にそれが外に向けて発信できたと思います」
――音源制作とライブが強く結び付いているんですね。
CHIPPI「そうですね。だんだんそういう気持ちになってきているっていうのもあります。
今回のEPではレコーディング前にライブでもやっていた曲があって、ライブの場でブラッシュアップしてテンポを上げたりしたこともありました。そういった意味でも今作はライブとの関連性が高いです」
――今回のEPは〈HEAT〉というコンセプトを先に決めたものですか?
CHIPPI「今まではやっていくうちに三人の中でできてくるような感じでしたが、今作はテーマを先に決めました。自主企画が終わって話していく中で、外側に向く意識みたいなのが合致していたんですよね。それで先にテーマを決めることになり、ストレートだけど人によって思い浮かぶ景色や情感が違う〈HEAT〉という単語になりました」
――最初からEPで作る予定でしたか?
CHIPPI「とりあえず〈HEAT〉というテーマを設けた上でいっぱい曲を作って、タイミング的に4曲のEPサイズがいいと思い、デモから選んでこの4曲にまとまったという感じですね」

『HEAT』の制作背景
――なるほど。制作方法は今回もCHIPPIさんがDTMで作ったデモを三人でブラッシュアップしたという形ですか?
CHIPPI「そうですね。曲によっては違いますが、基本的には今までと変わらないスタイルです」
――“Highlight”のみ作曲者に全員の名前がクレジットされていますよね。
CHIPPI「いつもまとまった作品を作る時に、一曲だけそういう曲を作る流れがあるんです。“Highlight”は今作におけるそういう立ち位置の曲で、Yoshinaoが〈こういう曲を作りたい〉と原案を出して、三人で練って作りました」
Yoshinao「ギターで〈こういうコードで作りたい〉とCHIPPIに伝えて、それを格好良くしてもらったのがスタートでしたね」
――E.sceneの作品ではシンセやピアノの音が入っていますが、あれはDTMで入れているんですよね?
CHIPPI「そうですね。プラグインでやっています。ただ、打ち込みというよりはリアルタイムで弾いている感じを出したくて、極力直さないようにしています。今作はその意識が特に強かったですね」
――なるほど。今回は声ネタみたいなのが入っている曲あるじゃないですか。あれはサンプルパックか何かですか?
CHIPPI「デモを作る段階だと、サンプルパックから理想に近いものを選んで加工して使っています。レコーディングする時にまこっちゃん(真琴)にその雰囲気で録ってもらって、それをいじって作りました」
――ミックスはどなたがされているんですか?
Yoshinao「ミックスは前作と同じで、yasu2000さんにお願いしました。新潟と東京でやりとりして、一回だけ立ち会うこともできました。前作から一緒にやっていたので、どういう風に伝えたらいいかわかってきた感じがありましたね」
CHIPPI「前回よりもスムーズにできて、やりたいことも伝えられました」
感情や思いを生演奏感あふれる音に乗せて
――初期はエレクトロニックミュージックっぽい要素もありましたが、最近は生演奏を前面に出す感じですよね。そんな中でも、今作ではドロップみたいなベースソロの入り方とかをするじゃないですか。あれに初期からの名残のようなものを感じました。
CHIPPI「初期がエレクトロっぽかったのは、単純に同期っていうスタイルに対して自分たちの中に先入観があったんですよね。
元々のルーツは生演奏のソウルやファンクだったのですが、そこから単純にパソコンで作るという工程に慣れてきたのと、自分の中で(生演奏と同期の)バランスが見えてきたんです。今作では、そうやって積み上げてきたものを一番やりたいバランスでやれました。
今回は特に生演奏感を出したかったので、そういう風に言っていただけてよかったです」
――今回は生演奏感がキーですよね。あと、DTMの要素はあるんですけど、グリッド感みたいなものが曲によっては強くなかったりするのも面白いなと思いました。今回の作品を作るにあたって目指したものを教えてください。
CHIPPI「今作は、今までより気持ちがストレートに伝わるような作品を目指しました。〈外に向けて〉という意識もあって、〈こういう音を作りたい〉という思いより先に〈こういう歌詞を書きたい〉とか〈こういう思いを伝えたい〉っていうところに、これまで自分たちがやってきた音が乗っかる形で作りました。前作は〈こういう音を〉とか〈こういう音楽を〉みたいなことが先行して、そこに〈こういうものを伝えたい〉っていう思いが乗ってくるみたいなイメージだったんですけど。そこが今作での生演奏感とか熱量みたいなものに繋がっていると思います」
――E.sceneはそういった感情を大事にしていると思うのですが、真琴さんが今回のEPで感情を伝えるためにこういうアプローチをしたということがもしあればお伺いしたいです。
真琴「そうですね……全体的な像っていうよりも、言葉に感情を乗せている感じはあります。歌詞の言葉に対して出てくる自分の気持ちを模索しつつ歌っている気がしますね。今までもやっていたことなんですけど、それが繊細にできるようになったというか。レベルアップしたように思います。あと、最近は曲を作る時にみんなと気持ちを共有する瞬間が多くなったのが大きいかなと感じています」

ロバート・グラスパー、UKジャズ、ハイエイタス・カイヨーテ……多彩なリファレンス
――制作時に研究したアーティストはいらっしゃいますか?
CHIPPI「研究したってほどではないですが、やっぱりロバート・グラスパーですね。歌モノの曲が凄く好きで、最近は特に鍵盤の生演奏感とか動き方の部分に影響を受けています。H.E.R.とミシェル・ンデゲオチェロとやった“Better Than I Imagined”は、リリースされてからずっと死ぬほど聴いていました(笑)」
Yoshinao「僕はロバート・グラスパーのようなNYジャズ、クリス・デイヴとかジャスティン・タイソンとかも凄く好きなんですけど、最近はUKジャズのドラムが凄く好きです。ユセフ・デイズとかエズラ・コレクティヴとか。あのラテンっぽいというか、細かいビートが凄く好きですね。僕たちの曲や書きたい歌詞、感情を表現する上でそういうビートも合うということが、最近やっていて体感してきてもいます。
NYとは違う進化の仕方をしているところに、自分たちの活動と通じるのでシンパシーを感じますね。自分たちだけの音を突き詰めている感じというか。単純に音楽が好きっていうのはもちろんそうですけど、色んなクロスオーバーをして、色んな格好良いものを凝縮している感じが好きです。技術よりもそういうところで今のUKジャズが好きで、そこに僕は一番影響を受けている感じです。
あと、今年の〈FUJI ROCK〉にCHIPPIと一緒に行って、ハイエイタス・カイヨーテを観たんですよね。今作の4曲目“Compass”の途中の部分は、ハイエイタス・カイヨーテを観た次の日に入れた展開なんです」
真琴「私もハイエイタス・カイヨーテですね。“Compass”を歌う時にイメージしていたのが、“Fingerprints”っていう曲なんです。それ以外は、今までの記憶を辿って自分の中にある感覚的なものを呼び起こすように歌いました」
CHIPPI「E.sceneを始めてからジャンル感とかにはあまり固執していなくて、自然に日々それぞれが聴いたり積み上げたりしてきているものが自然に出るのが一番いいなと思っています」
――“Compass”といえば、ドラムの鳴りの部分でクリス・デイヴを感じました。
Yoshinao「そうですね。コンプ感みたいなのは意識しました。あとUKジャズのスネアが凄く前面に来る太い感じというか、あのマッチョな感じを意識しました(笑)。
クリス・デイヴは本当に大好きで、携帯の待ち受けもクリス・デイヴとのツーショットなんですよ(笑)(ここでiPhoneを取り出して画面に見せる) 」
――クリス・デイヴはよれた感じとかもやるじゃないですか。今回はよれた感じというよりはタイトな印象ですよね。
Yoshinao「よれたビートも過去の曲では色々試してはいたんですけど、まこっちゃんっていうボーカリストと上手くグルーヴを出すのが難しくて悩んだ時があったんですよね。それで最近はよれたビートにあまりチャレンジしなくはなったんですけど、それこそ新しい作品ではやりたいなっていうのは常々思っています」
CHIPPI「常々(笑)」
Yoshinao「でも、よれないビートの中での自分らしさや格好良さを出すようになってきました。自分のスタジオで〈どういうマイクを使ってどういうスネアで録るか〉みたいな部分でこだわれるようになってきたんですよね」

E.sceneがラッパーとコラボするなら?
――そういえば、クリス・デイヴやロバート・グラスパーもそうですけど、現行ジャズのあの辺の人たちは客演でラッパーを入れたりするじゃないですか。E.sceneだとそういうことはしていないですよね。
CHIPPI「そうですね。単純に知り合いがいないっていうのもありますけど(笑)。めちゃくちゃシンパシーを感じて一緒にやれる人がいたら、今後そういう展開があっても面白いのかなとは思います。
この同期っていう形で上手く格好良くやるのは、難しそうだなって印象はありますね」
――ちなみに、もしやるとしたらどういうタイプのラッパーが良さそうだと思いますか?
CHIPPI「日本の人とやるなら、日本語がちゃんと聞こえる人がいいですね。もちろんフロウや音ノリみたいな部分もこういう音楽をやっている中で絶対に大事な部分なんですけど」
Yoshinao「あと、声が低めな人の方が合いそうかな」
――ラップ関係の話題だと、“Highlight”もちょっとラップっぽい歌い方を一瞬していますよね。
真琴「そうですね。二番目の頭あたりは、最初そういう感じのメロディーを歌っています。歌い方はYoshinaoと話し合いながら、タイム感とかそういうところを練りました」
――あと、“Highlight”のアウトロのところでボーカルが声ネタっぽくループされる展開があるじゃないですか。あれはヒップホップの要素を感じて、個人的に〈おっ〉となったポイントでした。
Yoshinao「嬉しい。最初から声を入れたいっていうのは話していたんですよね。イントロから声ネタが結構入っていて、間奏でも入っているし〈アウトロどうする?〉と最後まで入れるか入れないか悩んだ部分でした」
音を研ぎ澄ましてライブを重ねアルバム制作へ
――これまでにシングルやEPをたくさん出していますが、アルバムを作る予定はありますか?
CHIPPI「気持ち的には、次はアルバムを作りたいとは思っていますね。EP、EP、EPで来ているので。自分たち的にも聴いてくださっている人たち的にも、そろそろアルバム聴きたいんじゃないかなっていうのがあるので(笑)。僕たちも一個、アルバムというでかいものを作りたいし、今やりたいこともいっぱいありますし」
――やりたいことというと、例えば?
CHIPPI「音の部分を模索していきたいです。レコーディングは新潟のスタジオを借りて自分たちでやっているんですけど、それで自分たちが出したい音を作れているんですよね。そこにもっと時間をかけたいです。音のキャラクターというか。〈E.sceneってこうだよね〉っていうイメージが研ぎ澄まされてくると、E.sceneとしてよりいい音楽ができるんじゃないかという気持ちがあります。この生感みたいなものをどこまでE.sceneのスタイルで格好良くできるかみたいなところで、まだいっぱいやれることがあるので」
Yoshinao「プリプロまでは今いる僕の家のスタジオでやっているんですけど、レコーディングは区の文化会館でやっています。凄い格好良い建物の中にスタジオがあるんですけど、区の持ち物なのでお金もそんなにかからないんです」
――夢のような場所じゃないですか。
Yoshinao「夢のような場所なんですよ(笑)。
よりユニークなものを作りたいと最近は思うようになってきたのですが、それが自分たちでできるっていうのは強みだと思っています。そういうところをどんどん突き詰めてやっていきたいです。こういう環境でやっている僕たちみたいな若いアーティストって少ないと思うので。そこで頑張っていきたいなっていうのは三人それぞれが思っていると思います」
――色んなやりたいことがあるかと思うんですけど、それをやるために準備していることってありますか?
CHIPPI「同期のクォリティーを高めるため、鍵盤をめっちゃやっていますね。ほぼプレイヤーくらいの気持ちで練習していて、ベースと同等ぐらいに意識しています」
――でも、ライブの時はベースを弾くんですよね? 鍵盤がどんなに上達したとしても、ベースを同期にはしない?
CHIPPI「ベースを同期にはしたくないですね(笑)。シンベ(シンセベース)だったらまぁ……いや、それでもちょっと嫌だな(笑)」
――やっぱり、アイデンティティーとしてはベーシストなんですね。
CHIPPI「そうですね。ベースの方がパッて弾けるというか。まだ鍵盤は生感でプレイするって感じよりは、作る過程でのプレイング感でしかないですし」
――では、最後に今後の目標を教えてください。
CHIPPI「音源に関してはアルバムを作りたいですね。
あとはやっぱりライブです。自分たちで企画して、いいなって思ったアーティストを呼んだり、シンパシーを感じられる人たちといい空間を作っていけるとよりいいなと思います。単純にワンマンとかもまだやったことがないのでやりたいですね。
E.sceneでしか味わえないライブの空気や、生で聴きたいって思える意味を自分たちでも模索していきたいです。それがあればもっと音源もライブも魅力があるバンドになるので、ライブはどんどんやっていきたいですね」
RELEASE INFORMATION
リリース日:2022年11月16日
配信リンク:https://nex-tone.link/A00107812
TRACKLIST
1. Shimmer
2. Marble
3. Highlight
4. Compass
LIVE INFORMATION
E.scene Twoman Live “HEAT”
2023年3月3日(金)新潟 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
出演:E.scene/さらさ
開場/開演:18:30/19:00
前売り/当日:3,000円/3,500円(いずれもドリンク代別)
プレイガイド受付(e+):https://eplus.jp/sf/detail/3758970001-P0030001
E.scene 1st Oneman Live “HEAT”
2023年3月10日(金)東京・新宿 MARZ
出演:E.scene
開場/開演:18:00/19:00
前売り/当日:3,000円/3,500円(いずれもドリンク代別)
プレイガイド受付(e+):https://eplus.jp/sf/detail/3758470001-P0030001
Shinjuku MARZ 21th Anniversary party

2022年12月22日(木)東京・新宿 MARZ
開場/開演:18:30/19:00
出演者:Campanella/DALLJUB STEP CLUB/E.scene
チケット:3,000円(ドリンク代別)
販売開始:2022年11月10日(木)12:00~
チケット取り扱い:e+
主催・制作:Shinjuku MARZ
お問い合わせ:Shinjuju MARZ
https://eplus.jp/sf/detail/3756800001-P0030001
http://www.marz.jp/schedule/2022/12/shinjuku_marz_21th_anniversary_party.html
PROFILE: E.scene
2018年結成。新潟を拠点に活動する、真琴(ボーカル)、CHIPPI(ベース)、Yoshinao(ドラムス)からなる平均年齢22歳のスリーピースバンド。メロウでスモーキーなボーカルに、R&B/ファンク/ヒップホップ/ネオソウル/ジャズ/フュージョンのテクニックを取り入れたメリハリとグルーヴのあるリズム隊のプレイが濃厚に絡み合う。R&Bダンスで培ったボーカル真琴のライブパフォーマンスはライブハウスでは収まりきらないスケールを感じさせる。2019年には結成からわずか1年で〈出れんの!? サマソニ!?〉の最終選考に選出され、さらにFUJI ROCK FESTIVAL〈ROOKIE A GO-GO〉への出演を果たし、そのパフォーマンスが話題を呼んでいる。



