脚本は、音楽におけるスコア。監督がアイデアを言語化し、ストーリーがプロットされて、登場人物に言葉が振り当てられてシーンごとに背景などの、いわゆるオーケストレーションなどが固定される。この本「脚本家 黒澤明」は、展覧会のカタログとして制作された。膨大な量に及ぶ黒澤が手がけた脚本のカタログという以上に、彼の映画がどのように脚本という苗から育まれたのかを、原資料や当時の監督らの証言とともに明らかにしていく。伊丹万作はシナリオの台詞ではなく、地の文の表現能力を高く評価した。曰く彼の文章は〈具体的な効果を持ち、特に視覚的な印象を与える〉。巨匠はシナリオの弱点を克服することが映画の強度を産むと語っていた。