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杉本博司展からインスパイアされて紡いだ物語

――先ほどの話のように楽曲提供をする作家陣もガラリと変わりましたね。始動時からのプロデューサーでもあった西脇(辰弥)さん、お馴染みのKAZSINさんの他は、現在のバンドメンバーやライブにも参加していた星野沙織さん、MAHATMAの原澤秀樹さんの名前が並んでいます。

「当初はどこのレーベルにも所属せずに、自分自身で何か音源をリリースしようと思ったんですよ。そう考えたきっかけの一つとなったのが、2016年に東京都写真美術館で杉本博司さんの〈ロスト・ヒューマン〉という展覧会を観に行ったことだったんですね。

そこには廃墟と化した劇場に、真っ白いスクリーンにものすごい光量を当てて写真を撮った作品があったんですが、劇場の過去の美しい部分とボロボロに朽ち果てた今の姿を捉えていて、すごく強いインパクトを受けたんですね。いろんな作品を観覧したんですけど、またその作品の前に戻ってきて、ずっと観ていたぐらい感動して。この廃墟となった劇場を、LIV MOONの作品にいつか何かしらの形で投影できないかなと思ってたんですよ。

その作品のポスターも買って、部屋にずっと飾っていたんですけど、このコロナ禍で、今こそ本格的に曲を作るべきだって思ったときに、あの劇場をやっぱり思い出したんですね。いろんな劇場やライブハウスが閉鎖されたり、人が集まらなくなった今の状況とかぶるところもあって。

そこで、まずはその作品からインスパイアされた物語を自分で書き始めて、それを西脇さんとKAZSINさんにお渡しして、〈インスピレーションを受けたシーンだったり、全体を読んで感じた印象を楽曲として書いてもらえませんか〉とお願いしたんですよ。同じストーリーで、それぞれからまったく違う楽曲が出来上がってくるのも面白いだろうなと思っていて。

でも、そうこうしているうちに……ちょっと話が飛ぶんですけど(笑)、私はsoLiでも活動している星野沙織ちゃんのバイオリンを、絶対にこれからのLIV MOONに入れたいという思いをずっと抱いていたんですね。

コロナ禍で続けていたツイキャスのライブ配信でも、ずっと沙織ちゃんと西脇さんと一緒にやっていたんですが、西脇さんとその話をするときに、沙織ちゃんにもそんな経緯を伝えていたんですが、彼女は物語にもすごく興味を持っていてくれて。

そんな流れを、たまたまsoLiのお2人がいる現場で、Walküreのディレクターさんにも話したんです。そこで〈LIV MOONが新たな作品を出すなら、一緒にやりませんか〉という話にもつながっていったんですね。

そこでさっき言ったバンドサウンドの話にもなるんですけど、戦争が始まってしまった世界で、いまだコロナもある中で、私が書いた廃墟劇場からインスピレーションを受けた物語にこだわりすぎて、暗い時代に暗い世界を届けるのもどうかなと思ったんですね。

バンドメンバー全員に曲作りに参加してもらうなら……そう考えたとき、その3人以外は物語のことには触れずに、今、LIV MOONで届けたい楽曲を自由に書いてもらおうかなと思ったんです。沙織ちゃんには、その物語の登場人物の1人から派生した『Anemone』という詩を渡していたのですが」

 

星野沙織

楽曲に魂を感じる――soLi星野沙織 参加の理由

――沙織さんに作曲を依頼した背景には、どんなものがあるのでしょう?

「LIV MOONがバンドとしてライブもできず、作品のリリースもできなかった時期に、LIV MOONの炎をどうしても絶やしたくなくて、私は西脇さんの協力を得て、アコースティックライブをやっていたんですよね。

そこに沙織ちゃんも参加してもらっていたんですけど、あるとき、彼女が自分のアルバムを出すと言っていたので、〈せっかくだからみんなの前で宣伝しようよ〉って、私のライブのときに沙織ちゃんのアルバムから1曲歌うことにしたんです。

彼女の曲はインストゥルメンタルだったんですけど、偶然にも沙織ちゃんが歌詞を書いたものがあったんですね。とっても素敵な曲だし、勢いもあるし、パワーもある。沙織ちゃんは小柄で儚い妖精のようですけど、楽曲にはすごい魂を感じるし、どんな曲を書いているのかも知ってたので、今回は沙織ちゃんにもお願いしたんです」