会場の芦屋ルナ・ホール（1月7日。18時半〜）は満場で、客層はまさしく老若男女まんべんなく。そして、主役の登場を待つ場内には暖かくも、エモーショナルなヴァイヴが渦巻く。まさしく、〈ザ・ホームカミング・コンサート〉。音楽と地縁が実を結んだようなその幸せな光景を目の当たりにして、ぼくはそんな言葉を思い浮かべた。居住するニューヨークから昨日帰国したという大江は関西学院大学1回生のときに所属する軽音楽部の公演でこの会場のステージに立ち、大勢の観客の前でパフォーマンスをする快感を知った。多くの人に両手を広げてエンターテインメントしてきている彼にとって、このルナ・ホールはまさしく原点となる場であるのだ。しかも、デビュー40周年という節目もこの公演は背負っている。
大江は一人、グランド・ピアノに向かい合う。そう、今回はソロ・ピアノによるコンサートだ。1985年発表の“JANUARY”で始まった1部は、1980年代の人気ポッパーとして伸び盛りな時期の曲を今のスタンスで弾いていく。異国の音大（そのNYのザ・ニュー・スクール大学はロバート・グラスパーやホセ・ジェイムズらも出ている）で学び直し、自分ならではのジャズを作る道を歩むと決めた澄んだ心持ちがその軽妙な演奏の奥には見え隠れする。
当然のことながら、臨機応変。1部の途中で彼は米国ブラス・ロック・バンドであるシカゴの1972年大ヒット曲“サタデイ・イン・ザ・パーク”を弾き込んだりもする。その曲は土曜日の円満なNYセントラル・パークの風景を綴ったものだが、それはこの公演日が土曜日であることと繋がっているのか。自在に鍵盤に這わす彼の所作には、そう深読みさせる機智がそこかしこにある。だから、観客は乗せられ、手拍子が起こることもある。
ニューヨークに居住するようになってからの2012年曲“Boys Mature Slow”で始った2部はジャズ・ピアニスト期に入ってからの楽曲もいろいろ披露し、聴き手を楽しませる。こちらでもシンガー・ソングライター期の曲は披露されたが、それらの繋がりは自然で、違和感はない。それは歌おうとピアノ奏者として邁進しようと彼の表現の軸にはメロディ・メイカーとしての矜持があり、それをアトラクティヴなジャズ・ピアノ表現として結晶させているという事実ゆえだろう。
歌う感覚をも併せ持つピアノ音が連鎖し、それは色彩豊かな風景として浮き上がる。それらのなかには南アフリカの逸材ピアニストであるアブドゥーラ・イブラヒムを想起させるような、アフロ・スピリチュアル調と言いたくなる場合もあった。そして、そうした一連のパフォーマンスは、大江のプライヴェイトな場に招き入れられたような気持ちにもさせるものではなかったか。そう感じさせた奥には、広いステージを半円形に囲むような会場のレイアウトも利に働いていたはずだ。やはりつまるところ、 アット・ホームなザ・ホームカミング・コンサートの誉がここにはあったのである。
SETLIST
RENAISSANCE CLASSICS 40th Anniversary Celebration 「大江千里 Piano Concert ～Remember Homeroom!～」
2023年1月7日（土）兵庫・芦屋 ルネサンスクラシックス芦屋ルナ・ホール（大ホール）
開場／開演：18:00／18:30
【1st Stage】
JANUARY
ワラビーぬぎすてて
ふたつの宿題
十人十色
GLORY DAYS
平凡
昼グリル
サヴォタージュ ジェシオ’S BAR
【2nd Stage】
Boy
Mature Slow
Re:Vision
Tommy Who Knew Too Much
魚になりたい
竹林をぬけて
Rain
香港ぶるうす
The Look
格好悪いふられ方
Bikini
The Adventure of Uncle Senri
Orange Desert
INFORMATION
RENAISSANCE CLASSICS 40th Anniversary Celebration 「大江千里 Piano Concert ～Remember Homeroom!～」配信中
収録公演日：2023年1月7日（土）
収録公演会場：ルネサンスクラシックス芦屋ルナ・ホール
配信：ローチケ LIVE STREAMING
料金・視聴チケット：2,000円（税込）
販売期間：2023年1月11日（水）12:00～2023年1月27日（金）20:00
視聴可能期間：2023年1月21日（土）0:00～2023年1月27日（金）23:59
視聴チケット販売告知用URL：https://l-tike.zaiko.io/e/SenriOe40thAnniversary
https://classics-festival.com/rc/performance/40th_senri-oe/
