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台湾伝統文化の奇妙さとエクストリームな魅力

――例えば、前回インタビューしたバンド、百合花(Lilium)は台湾の伝統音楽を取り入れたサウンドが特徴です。Mong Tongにもそういった要素はあるのでしょうか?

ホン・ユー「伝統音楽の要素はないと思いますね。使っている楽器や機材のみならず、作曲のベースとなる理論も西洋ですから。百合花のリン・イーシュオは台湾の伝統音楽を学んできていますし、本当の意味で、台湾の音楽を作っていますが、私たちはいつも〈pseudo-Taiwanese music(偽の台湾の音楽)〉を作っていると感じます」

――あとはどこかノスタルジックというか、ヴィンテージ感もありますよね。

ジュン・チー「そうですね。私たちは例えば、シンセサイザーではなく、古いキーボードサウンド使っているんです。ヴィンテージなサウンドメイクにこだわっているからかもしれません

※シンセサイザーは音色を調整できるのに対して、キーボードはできない

ホン・ユー「私たちは古いサウンドを好んで使いますし、それらは多くの場合ハイファイ(高音質)ではありません。けど、組み合わせることで新しい音楽になるんです。」

――音楽のみならず、台湾のカルチャー全体から得ているインスピレーションもありますか?

ホン・ユー「台湾の伝統的な葬儀にはインスパイアされてますね。バンドが演奏していたり、パレードやダンス、時にはストリップまで行われるなど、とても賑やかなんです。あとは、泣く人を雇ってたり。葬儀で泣くことを生業とする人たちがいるんですよ。

私たちはこういった、ある種〈奇妙な〉慣習に幼い頃から触れてきましたが、都会に住む台湾人はこれらを〈田舎の慣習〉として嫌う傾向があります。私たちの両親もそうでした。けどそのおかげで、むしろそこに魅力を感じる、客観的な視点が育まれたのかもしれません。昔はエクストリームなメタルを聴いていましたが、最近は台湾のこういった環境自体が〈エクストリーム〉だと感じています」

――YouTubeなど、視覚的な情報からも音楽のインスピレーションを得ているんですね。

ホン・ユー「はい、あとはゲームや古い映画など。表現形態にこだわらず、さまざまなアートからインスピレーションを得たいと思っています」

ジュン・チー「『羅生門』や『切腹』など、日本の侍映画は好きですね。『荒野の七人』から『スター・ウォーズ』まで、影響を受けている欧米の映画は多いですし」

 

なんでもありな台湾のリアルを表現

――MVも自分たちで制作されているんですよね?

ホン・ユー「制作というほどのものではないのですが、ニュース映像を素材に自分たちで編集したものです。台湾のニュースはドラマティックで、大げさなので映像だけで十分見応えがあるんです」

2021年作『Music From Taiwan Mystery(台灣謎景)』のミュージックビデオ

――けど、Mong Tongの音楽と組み合わせると、そのドラマティックさを皮肉っているかのようにも感じられますね。

ホン・ユー「そうですね。私たちは風刺や皮肉もアート表現の一つだと考えています。

MVを見て〈小馬鹿にしている〉と感じる人も実際いるようです。あるいは、先ほど話した台湾の葬儀のように、台湾にとってマイナスイメージだとみなす人もいるかもしれません。けど、これが台湾のリアルであり日常なんです。そして、全ては文化ですし、恥ずかしがる必要もない。これは私たちが音楽のみならず、すべての表現を通じて伝えたいことでもあります」

――ライブを行う場所も斬新ですよね。先日SNSで結婚式で演奏している動画を見て驚きました。WePresentのインタビューで「慣習に囚われない場所で演奏することを目指す」とも発言されているように、自分たちの音楽をどこで聴かせるか、という点でも実験的ですよね。

ホン・ユー「あれは私が参加するエクスペリメンタルロックバンド、Prairie WWWWのメンバーの結婚式だったんです」

――Mong Tongが演奏する結婚式というのもユニークでいいですね。反応はどうでしたか?

ホン・ユー「あんまり良くなかったですね。出席した友人によると、トイレで誰かが〈ナイトクラブで聴く音楽みたいで、好みじゃない〉と話していたようです(笑)」

――シュールではありますよね(笑)。アーティストは基本的には、観客には自分たちの音楽をしっかり聴いて欲しいと考えているものだと思います。ライブで、観客の注意を引くために心がけていることはありますか?

ホン・ユー「観客のことは特に気にしていません。むしろ私たちが自分たちの音楽を気に入ってくれるTA(ターゲットオーディエンス)を探しているので、(音楽が)気に入らなかったら、無理に聴く必要はありません」

――だいぶチルな姿勢ですね(笑)。

ホン・ユー「そうなんです。もともとは自分たちのために音楽をやってたわけですし。ただ、今回のヨーロッパツアーで感じたのは、海外のTAを見つけるためにも、自分たちのジャンル名を伝えることは重要だと感じました」

――Mong Tongのジャンルについてなのですが、幾何学模様とライブをしていますし、イメージ的にサイケデリックミュージックとみなす人は多そうですが、お2人はどう感じていますか?

ホン・ユー「実際、サイケデリックミュージックの要素は少ないと思います。ワールドミュージックやエクスペリメンタル、レフトフィールド、あとロックも入ってますね。

あらゆるものをミックスしてしまうのは、台湾人らしいアプローチだと思います。なんでもありなんですよ(笑)」

――Mong Tongというバンド名の由来についても教えてください。

ホン・ユー「これに中国語(台湾華語)を当てはめようとすると、複数のパターンが考えられます。そして、その他の言語でも〈Mong Tong〉と読む言葉は存在するでしょう。私たちは音楽を通して何かを伝えようとしているわけではないし、アーティスト名も好きに解釈してほしいと考えています。特に英語圏の人々は典型的な中国語の響きだと感じるのではないでしょうか」