東北の〈湯治〉文化とアンビエントの結合。〈一泊二日のファンタジー作品〉ふたたび。

 あの大震災の後、災禍からの復興を通じて自然と人間、文化とテクノロジーの関係を根本から問いなおそうとする動きがあった。そしてそれは確かに世の中は良い方に変わるかもしれないという手応えと新しい可能性を開きつつあった、ということはどうやら音楽やカルチャーを愛好する人々に特有の共通した感覚らしい。東北でも様々な試みがなされ、様々な事情で続けられなくなっていった。そしてまた一つの災禍が終わりとされ世の中が動きはじめている。
 
 東北最大の湯治場・鳴子温泉郷を舞台に2008年の初回から何年もの時間をかけ繰り広げてきた、ちいさなアンビエントフェス〈鳴響〉。山菜や温泉卵など温泉街 で思い思いの土地の食材を買い、湯に入って、寝て、起きてまた湯へと、現世と極楽を行き来するよ うな時間を心ゆくまでゆったりとすごして休む。東北各地に残るそんな〈湯治〉文化とアンビエントを融合し、東北の感性が掴んでいる何かを湯治場から発信する―― 強靭なコンセプトはそのままに、新緑がまぶしく輝くような季節、〈鳴響〉が5月20日(土)、21日(日)、2年ぶりに、湯治宿を会場としては実に8年ぶりに復活する。

 湯とともに楽しめるライヴはアンビエントを中心に構成。帰国後初出演となるNami Satoはじめ、仙台シーンの若手Hiroto Kudoからベテランの電子音響作家jaiこと高橋哲男、東北放送の温泉コーナーなどFM/AMを問わず活躍する橋元成朋、Coupie等の活動と並行し震災をきっかけにして地元の郷土芸能の復興でも活躍してきた四倉由公彦、そして民俗藝能の先に活きた音楽を追求し続ける齋藤真文(アラゲホンジ)はコロナ禍を通した〈個〉への帰結としてソロでピアノの弾き語りという形態で出演する。

 大正時代築の自炊棟では鳴子の温泉街あちこちでみかける愛らしい〈こけし〉の壁画を手がける美術家宮本悠合によるインスタレーションが登場。映像は仙台の映像/VJシーンの中核的存在であるGIN、notchの使い手である映像作家・菊池士英らが手がける。温泉街では名物〈こけしセッション〉も復活予定。

 鳴子を実際に訪れてみると、温泉が痛めつけられた人々を迎え、生きる力を与えて帰す土地であることが見えてくる。日本文化には生きる力を取り戻す不思議な救いの装置が埋め込まれていることに改めて気づかされるのだ。

 東北が輝くような田植えの季節 新緑の中で湯につかる極楽からまた新たな一泊二日のファンタジーが幕を開けようとしている。

 


LIVE INFORMATION
鳴響 pH6.0
2023年5月20日(土)、21日(日)
開場・開演:18:00
会場:鳴子温泉姥の湯旅館(宮城県大崎市) 他
出演:Nami Sato/Hiroto Kudo/jai/橋元成朋/四倉由公彦/齋藤真文(アラゲホンジ)

https://narukyo6.peatix.com/