秋の夜長、浄土庭園の虫たちと競演。京都の古刹・法然院でのアンビエントの夕涼み。
猛暑の日々もお盆を過ぎると蝉時雨から日が暮れ夜が深まるにつれて秋の虫が鳴き始める。そんな夏が終わる季節に毎年京都の古刹法然院方丈で開催されてきたのが涼音堂茶舗の〈電子音楽の夕べ〉である。会場の法然院は法然上人が開いた庵のあった場所とされ、浄土庭園には〈善気水〉という京洛屈指の銘水が湧出している。細々と続けてきたレーベルの初期コンピ『Water Green』のリリースパーティからはじまった〈電子音楽の夕べ〉も今年で20年を迎えようとしている。
今回の開催を記念して涼音堂茶舗からは出演者たちの連続リリースが予定。きっかけとなった『Water Green』に参加していたのがヒペリカムである。メンバーの甲田達也はUNKNOWN ASIA 2023にも出展する。Coupieの四倉由公彦、家業であった西陣織の素材の見立てを通じ制作を続ける武田真彦と箏の今西紅雪のデュオ、そしてピアノと弦楽器や有機的なエレクトロニクスで繊細な季節の表現を奏でる柳平淳哉と磯部優のいろのみ、 井浦崇と大島幸代による映像・音響/空間表現ユニットOTOGRAPH、映像インスタレーションを手がけるSagar Patelをはじめとした京都在住の強力なアーティストたちが空間を構成、そして新進気鋭の茶人・中山福太朗が御茶席を担当する。
御茶席は茶の湯の要素を解体しその原点や発生をこの空間で再構成する試みでもある。今回の音楽をもとに制作された宝泉による御菓子とともに、京都最古の老舗のひとつ宇治茶の通圓24代自らのこの日の音楽のためにブレンドした抹茶が善気水で点てられる。そして茶とともに重要な要素が香りで、それぞれの楽曲、移り変わる時間帯、聴く位置それぞれがLISNによって繊細にコーディネートされている。
夜の浄土庭園は一面秋の虫の声に包まれる。あるとき演奏の側に蟋蟀が入ってきたことがあったのだが、その時、我々の側が逆に虫たちの共演に参加していることに気づかされたのだった。その音の粒一つ一つが生命だということ。どちらの音なのか分からなくなる瞬間。縁側に座っていると法然上人もここで同じように生命について考えていたのかもという感慨にとらわれてくる。仏教思想や美意識の展開を電子音楽というメディアを通じてトレースできたらということを当初は漠然と考えていたのだが、その点は想像していた以上の成功があるような気がする。
猛暑が続きそうな今年、秋の夜長にも今年しか味わえない体験があるかもしれない。
2023年8月28日追記:出演予定だったヒペリカムは文中のUNKNOWN ASIA 2023の会期(2023年9月16日(日)から)により出演できなくなってしまいました。開催記念シングルは予定通りリリースされます。 *intoxicate編集部
LIVE INFORMATION
electronic evening 2023 電子音楽の夕べ
2023年9月16日(土)京都・法然院 方丈
開演:18:00
出演:四倉由公彦/武田真彦+今西紅雪/いろのみ/OTOGRAPH/Sagar Patel/SPEKTRA
御茶席:中山福太朗
御抹茶:通圓
御菓子:宝泉
香り:LISN
https://ee2023.peatix.com/