©︎Yaona Sui

〈北欧ノルウェーのポップセンセーション〉と称されるシンガーソングライター、シグリッドが初の来日公演にして初の単独公演を開催した。彼女が日本のオーディエンスを前に繰り広げたパフォーマンスとは? 現場で目撃したライターの村上ひさしが伝える。 *Mikiki編集部


 

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多彩なファンが詰め掛けた完売公演

スウェーデンと並ぶポップ大国ノルウェーから、歌姫シグリッドがやってきた。ヨーロッパを中心に高い人気を博し、“Don’t Kill My Vibe”、“Strangers”、“Mirror”などのヒットを続出してきた若きポップスターが、日本に初上陸。〈GREENROOM FESTIVAL ’23〉の出演に先駆けて、5月25日に東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEで単独公演を開催した。ソールドアウトとなった会場には、彼女と同年代の20代前半と思しき男女からやや上の年齢層まで、多彩なポップファンが詰め掛けた。

 

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巧みな歌でメロディを解き放つ

予定時刻の19時きっかりに、4人編成のバックバンドと共にシグリッドは登場。軽やかな身のこなしでステージ狭しと動き回りながら“It Gets Dark”でスタート。ライブを想定して曲順を決めたという彼女の最新アルバム『How To Let Go (Japan Edition)』のオープニングとも同様だ。リズムに乗って歌い踊る彼女を観ていると、思わずこちらの身体も動き出してくる。

オーディエンスの一人一人の目を覗き込みながら笑顔を振り撒いて“Burning Bridges”、“Sucker Punch”と続けて、次第にヒートアップ。だが、決して激しく歌い上げたりシャウトしたりするのではなく、優しく丁寧に、そして常に爽やか、というのがポイントだ。低音から中音、裏返る高音まで、巧みに声色を使い分け、涼やかにメロディを解き放っていく。フレーズ毎にキラキラと残る余韻が、これぞ北欧ポップという印象だ。

 

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バンドと観客を包む優しさ、親密な弾き語り

中盤には、やや落ち着いたムードの“Dancer”、ミッドテンポの“Plot Twist”などが挟まれ緩急もバッチリ。エレクトロニック系のサウンドになると、楽器を持ち替えてスタジオバージョンの小気味良さを的確に再現するバックバンドの演奏にも感心させられる。全員がコーラスを担当できるうえ、ベース&キーボード他を担当する女性には、時折主メロを歌わせてあげたり、掛け合いをしてみたり。ギタリストがステージ前方に踏み出してソロを披露した際には、大喝采が巻き起こった。それぞれのメンバーがスポットライトを浴びる瞬間を、さりげなく作ってあげる様子からは、彼女の優しさや音楽に対するスタンスというのも伝わってきた。自分だけが主役になりたいのではなく、バンドメンバーやオーディエンスを含めた全員と、みんなで一緒に音楽を楽しみたいという気持ちが彼女の音楽へと向かう原動力なのだ。

中盤のハイライト“Don’t Feel Like Crying”では、ひと際ドラマチックで高揚感溢れる歌を聴かせから、その後、バンドは退散。彼女ひとりがキーボードに向かって弾き語りで数曲を披露してくれた。ブリング・ミー・ザ・ホライズンとのコラボ曲“Bad Life”などが、オリジナルとはまったく異なるアコースティック調に生まれ変わり、親密度の高い時間と空間で酔わせてくれた。