Don’t Kill My Vibe!
いままさに北欧ノルウェーから特大ポップ・センセーションを起こそうとしている22歳。BBCの〈Sound Of 2018〉で堂々の1位に選ばれた彼女がようやくヴェールを脱いだ。このフレッシュなパンチをあなたはどう受け止める?

 若くして才能を認められたシンガー・ソングライターは、妙に大人びていたり、どこか屈折していたりする場合も多いが、ことシグリッドに関してそれは当てはまらない。むしろまったくその逆と言えるかも。初々しさが眩しく、〈すくすく〉という言葉がピッタリ。存在自体が実にピュアで、ナチュラルな魅力に溢れている。

 2013年に16歳の若さで本国ノルウェーのインディー・レーベル、ペトロリアムと契約。いくつかのシングルを発表するも、まだ学生だった彼女が音楽活動に専念しはじめるのは、2017年の春にシングル“Don’t Kill My Vibe”と同名のEPでメジャー・デビューを果たしてからだ。同EPをリリースするや否や〈スカンジナビア発のポップ・センセーション〉と騒がれ、一部では〈テイラー・スウィフトやケイティ・ペリーに続く存在〉なんて声まで上がったほど。そして同年11月発表の“Strangers”でさらなる成功を収め、世界中のチャートを席巻。以降も次々とシングル・ヒットを放ってきた彼女が、このたびファースト・アルバム『Sucker Punch』を完成させた。当然のように期待値は否応なく跳ね上がってしまうのだが、そんな期待をあっさり超えるどころか、本作はフレッシュな北欧らしさを真空パックした珠玉のポップ盤に仕上がっている。

 メイン・プロデュースを任されたのはマーティン・ショーリー。マリア・メナやネイサン・サイクス(元ウォンテッド)仕事で知られるマーティンとシグリッドとの相性の良さは、“Don’t Kill My Vibe”や“Strangers”で証明済みだ。その他のエクスクルーシヴ曲もシグリッドの天真爛漫な世界観を壊すことなく、ダイナミズムを携えたポップソングに仕上げ、巧妙に計算されていながら、そんなふうには思わせないお手並みが見事。また、キュートな“Sight Of You”や、バラード系の“In Vain”“Dynamite”では、彼女の友人でもある同郷のオーロラなどを手掛けてきたアシェル・ソルストランドが腕を振るっている。そして、最新シングル“Don’t Feel Like Crying”には、ケイティ・ペリーやトロイ・シヴァン仕事でお馴染みのスウェーデン人プロデューサー、オスカー・ホルターが参加……と、ノルウェーを中心とする北欧勢が多数関わっており、〈フィヨルドのよう〉と形容される主役の魅力をバッチリ引き出していて、白銀世界のキラキラした輝きを存分に味わわせてくれる。

 両親の影響でニール・ヤングやジョニ・ミッチェルを聴いて育ったという彼女だが、一方で同時代のポップ・ミュージックも大好きで、自分が歌うのはポップスだと明言。素朴なメロディー展開や、透明度の高いヴォーカルを聴いていると、アバのような正統派ポップスを現代に継承する貴重な存在という気も。その証拠に22歳になったいまも、シグリッドのピュアでまっすぐな視線はまったく変わらない。