
自分の生き方で世の中に斬り込まなきゃいけない
――温かい曲が収録されたポジティブな作品で、聴いているとハッピーになれますし、しんみり沁みる。シビアな背景や現実を忘れてさせてくれるアルバムだと思います。
「そうなんですよね。当時はアルバム自体のことをあまり押し出せなかったので、今回は背景だけじゃなく聴きどころなどを伝えたいですね。個人がイメージしたもの、頭の中でデザインしたものが形になった作品って、つまらないものがすごく多い。でも、最高のレコードって〈こんなものを作りたいなと思っていたのに、まったく違うものになった。けど、面白かったね〉という作品だと思います。それを体現している。
清志郎さんのソングライティングもよりシンプルになっていて、〈曲なんて1つか2つのメロディがあればいいんだよ〉とよく言っていましたが、それを見せてくれています。ロックンロールアルバムこそが最高のケミストリーだと実感させてくれた作品です」
――派手な曲はなくて驚くほどシンプルだけど、飽きがこない。
「あまり取り上げられない“Hungry”は、2つの視点から聴けるんです。一聴して〈世の中からはぐれた者〉の歌に思えるのですが、〈世の中に本気で勝負していかない奴ら、例えばライブハウスだけで幅を利かせて外で勝負しない人たちが集まってうだうだ言っているだけ〉という意味にもとれる」
――なるほど。
「世の中に迎合するのがいいとは思わないし、勝負しないのがいいとも思わない。自分のやり方、生き方で世の中に斬り込まなきゃいけない、ということを清志郎さんは体現していた。
それをメジャーのグラウンドでやったから『COVERS』は発売中止になった。限定されたマニアックなフィールドの人だったらああはならなかった。だけど、あの事件が中学生のロック好きな子などに届いて〈原子力、原子力発電所ってなんだろう?〉と初めて考えた。発言をする以上、リスクを負ってそういうところに立つんだと。
他の曲でも〈子供だましのモンキービジネス/まともな奴はひとりもいねえぜ〉(“ドカドカうるさいR&Rバンド”)と歌っていますが、そこには〈俺も含めてひとりもいないんだよ〉と自分も投影している。だから、僕たちの心にアタックすると思うんです。
世の中を拒否して勝負しない奴と勝負している者を嘲笑している奴が負けることよりかっこ悪いんだよ、ということを“Hungry”では歌っていると思います。この時期は清志郎さんと2人でいることも多かったので、そういう話をすると〈そうかもな〉と言ってくれたんですけど、2000年代は〈お前、考えすぎだよ。お前がガチャガチャ言うから、みんなそう思っちゃうんだよ〉と言っていました(笑)」

――(笑)。
「でも、きっとそうだと思います。あれほどのバンドを引っ張ってきて、90年にあれだけ色んなことがあって、会社やビジネス面でもたくさんのことがあった。もちろんスタッフやメンバーの協力もあったとはいえ、それらの局面をよく1人で全部乗り切ってきたと。大きなバンドじゃなければ、清志郎さんがスーパースターじゃなければ、そんなことは起こらなかったわけですし、乗り切り方ももっと楽だったはずなんですよね。だから、余計に響きました。
当時はインディーズが台頭し始めていて、〈高橋さんは東芝の社員で、たんまり金をもらっているじゃん。そんなのロックじゃないよ〉とか、散々言われたんです。清志郎さんは〈そういう奴こそロックじゃないんだよな〉とよく言ってくれました。〈金はないよりあった方がいい。金があることは別に悪いことじゃないからな〉と。
清志郎さんがすごい人なのは、メジャーのグラウンドにいて、あらゆる人の心を掴んじゃうような独自な立ち位置にいるからなんですよ。インディの人もオルタナティブな人も、〈フジロック〉に集まっている人から〈FNS歌謡祭〉を見ている人まで全員、忌野清志郎というイメージにバーンと繋がる。
いま聴いているロック少年少女たちは、それを目指してほしいと思います。自分の音楽とやり方で儲けたり成功したりすることは、決して悪いことじゃない。だけど、誰かにぶらさがったり、誰かの上に乗っかったりするのは一番かっこ悪い。自分の手で成功を掴んで、自分で自分を楽しくすることを清志郎さんは教えてくれたんですよ。
アルバムの最後の曲“楽(LARK)”で〈ハゲシイこの職業/わずかでも多く/遠くを見ていたい〉と歌っていますが、見ている場所がその辺の奴らとは違うんです」
――終わらないRCサクセション・忌野清志郎デビュー50周年記念企画はまだ続くんですか?
「2024年まで続きます(笑)。2025年になったら55周年ですから、さらに!」
――ゴーゴー! 期待しています。

RELEASE INFORMATION
リリース日:2023年6月7日
仕様:ゲイトフォールドジャケット+左右開きスリーブケース+14面ギミックジャケットCDケース
価格:14,850円(税込)
TRACKLIST
Disc 1, 2(180g重量盤2LP):『Baby a Go Go』
*ロンドンのアビー・ロード・スタジオにてハーフスピードカッティング
A面
1. I LIKE YOU
2. ヒロイン
3. あふれる熱い涙
4. June Bride
B面
1. うぐいす
2. Rock’n Roll Showはもう終わりだ
3. 冬の寒い夜
4. 空がまた暗くなる
C面
1. Hungry
2. 忠実な犬(Doggy)
3. 楽(LARK)
Disc 3(CD):『Baby a Go Go』リマスター
*当時プロモーションのために作成された変形14面イラストジャケットを復刻
1. I LIKE YOU
2. ヒロイン
3. あふれる熱い涙
4. June Bride
5. うぐいす
6. Rock’n Roll Showはもう終わりだ
7. 冬の寒い夜
8. 空がまた暗くなる
9. Hungry
10. 忠実な犬(Doggy)
11. 楽(LARK)
写真集:オリジナル限定盤CDに付属していたカラー24P写真集をLPサイズで復刻
ポストカード:当時の購入特典ポストカードを復刻