現代アメリカ最高の詩人、モータウンを成功に導いた副社長、名曲を量産するソングライター、敏腕プロデューサー、繊細な歌声の持ち主、説明不要なレジェンドがスモーキー・ロビンソンだ。まさにイヤーガズムなニュー・アルバム『Gasms』に浸りながら、いまこそ彼の功績を振り返ってみよう

 今年で83歳。ミラクルズでのデビューから65年を迎えたスモーキー・ロビンソンが新作『Gasms』を発表した。この10年の間には人気アーティストを迎えたセルフ・カヴァー集やクリスマス盤もあったが、オリジナル・アルバムとしては自身主宰のロブソから出した『Time Flies When You’re Having Fun』以来14年ぶり。故リッキー・ローソン(ドラムス)など同作の演奏陣がふたたびクレジットされた新作には過去のセッションも含み、制作に5年を費やしたという。時流におもねるわけでも懐古に浸るわけでもなく、スモーキーらしいデリケートな歌い口によるマイルドでテンダーなソウルが並ぶアルバムは、至福の時間を提供してくれる。オルガスムスを連想させる性的なタイトルは一部で物議を醸しているが、12歳下の現夫人や娘に反対されながらも「いま自分は40歳の気分なんだ」と譲らなかったあたりに、この人の現役ぶりが窺える。

SMOKEY ROBINSON 『Gasms』 TLR(2023)

 本人いわく〈現役〉の秘訣は、35年以上続けているヨガや早寝早起きの習慣。思えば、2004年にはヘルシーなソウルフードを扱う食品会社の設立にちなんだゴスペル盤『Food For The Spirit』を出した彼は、赤身肉を食べないことでも知られている。80年代にはドラッグに手を染めたこともあるが、それもホンの一時期。ゆえに声も変わらない。この健康体と現役ぶりはミラクルではなく自己管理の賜物だろう。近年はアンダーソン・パークやチャーリー・ウィルソンの曲で共演し、功労賞を受賞した今年のグラミー授賞式ではウォンヤ・モリス(ボーイズIIメン)の愛息たちによるワンモアを従えて歌うなど、元気な姿を見せていたことも記憶に新しい。