NewJeansのセカンドEP『Get Up』にも“ASAP”のプロデューサーとして参加することが明らかになっている250。K-Popやヒップホップシーンで活躍する異才は、韓国の大衆音楽ポンチャックを再解釈したアルバム『Ppong』(2022年)で、ここ日本でも注目を集めた。そんな250が、大阪・名古屋・東京・長野を回る〈【250 JAPAN TOUR 2023】“イオゴン - ポン” 日本巡回公演〉を2023年6月に開催。話題を呼んだツアーの初日、6月7日に開催されたCIRCUS OSAKA公演をミュージシャン/著述家の小鉄昇一郎が目撃した(なお、写真は東京公演で撮影されたものです)。 *Mikiki編集部


 

NewJeansのプロデュースと傑作『Ppong』で話題の才能

留まるところを知らないNewJeansの人気。今月末のカムバックも期待が高まる中、その裏側でこちらもじわじわとその名を轟かせているのが、プロデューサーの250(イオゴン)。

82年生まれ、ハンソ大学で音楽を学び、ラッパーへのトラック提供や劇伴の制作、そしてBoAやf(x)のリミックスなどでK-Popシーンにも参入し、地道なキャリアを築いてきた彼にとって、昨年は転機と言っていい一年だっただろう。”Attention”や”Hype Boy”に”Ditto”など、250が楽曲のほとんどを手掛けているNewJeansの熱狂的なブームもさることながら、250自身が一人のアーティストとしてリリースしたアルバム『Ppong(ポン)』は、K-Popファンとまた違う層も巻き込んで話題を呼んだ。

250によるf(x)“4 Walls”のリミックス

K-Popより遥か以前──統治時代の日本の影響下にあると言われている──の韓国の大衆歌謡であるトロットと、そのより庶民的なカラオケバージョンとも言えるポンチャックなど、かの国の生活と気風に深く根ざした大衆音楽を、250がヒップホップやハウスなどダンスミュージックの手法を使って再解釈した『Ppong』。それは強靭だがしなやかなユーモアと、巧みなトラックメイクと音像によって、一聴して心掴まれる傑作となっている。

250と『Ppong』が4つの部門で受賞した2022年の韓国大衆音楽賞においては、その音楽性について「K-Popが世界を席巻する今〈それで、あなた方の本当の音楽は何なの?〉と聞かれたらこのアルバムを示せばいい」「英米圏や日本から入ってきた様々な音楽の混交こそが韓国大衆音楽の土台にあり、その文化的な爆撃の中でも失われなかった情感こそが〈ポン〉なのだ」と語られている。韓国国内においても、彼の存在感は意義深く受け止められている。

※アルバムタイトルである〈ポン〉は、韓国において、ある種の情感、感性、ムードのようなものを指す言葉らしく、非常に多義的かつ、抽象的なキーワードである。

2022年作『Ppong』収録曲“로얄 블루 (Royal Blue)”

 

満を持しての来日ツアー、ダンスフロアーは理想的なカオスに

その250が満を持しての来日ツアーを行なう。アジアを・世界を巻き込むNewJeans旋風の中で、台風の目のごとく謎めいた存在である250……それが如何なる男なのか見極めんと、アメリカ村にごった返すポストコロナの時代を生きる若者らとインバウンドの観光客を掻き分けて、CIRCUS OSAKAへと潜入した。

今回のツアーは橋の下世界音楽祭などを手掛けるmicroActionによる運営・企画で、250だけでなくローカルアーティスト・DJを含むユニークな共演陣が各地にセットされており、大阪もその例に漏れず、関西を中心に幅広く活動しているDJらが参加している。

開場するとSSSSSHINによるアシッドハウスやパーカッシブなディープハウスを中心としたDJプレイが空間を練るようにムードを作り上げていく。次いでMongooseはよりバラエティ豊かな選曲で、7インチによるスカや民謡に混じって、YMOとそのソロを淀みなくプレイ。追悼ムード的な湿っぽさはなく、年季の入ったクラバー、東南アジア系のカップル、韓国風ギャル、Y2Kルックの少年、いかにも音楽マニアの中年男性などがマーブルに混じり合い、ダンスフロアーとして理想的なカオスとなってきた場を暖めていく。

 

終始真剣な表情の〈夜のピアノ弾き〉

そしていよいよブースに250が登場。フェミニンなドレスシャツ、流石にアルバムジャケットのようにオールバックでセットはされていないが、長髪に髭のその姿は〈夜のピアノ弾き〉と言った面相(ピアニスト、ではないところにニュアンスがある)。慎重な手付きで機材を確認していく。舞台下手側にセットされているのは3台のキーボード。前のDJからパスされた細野晴臣“ファム・ファタール”をフィルターで飛ばしながら、ラップトップからトラックを流し始める。アルバムにも収録されている“Love Story”のイントロが流れ始めた。

〈ディリリーリーディリディリディリリー♪〉と、サンプリングされたイ・パクサ──日本でも電気グルーヴおよび90年代サブカルチャーの文脈で輸入された、ポンチャックの帝王だ──の歌声がループすると、会場から笑い声にも似た歓声が上がる。言語と国を超えて誰をも陽気で朗らかなムードにするそのスキャットだが、250の表情は真剣そのものだ。というか、ライブの間から終演後まで、250はずっと真剣な表情だった。