大殺界から始まったバンドは、夢みたいな上昇を経て、何を感じる? 明日のことは誰もわからない、だから笑って生きてたい。そんな想いで叫ぶ言葉は……最高だZ!!!

 前作の完全音源集(アルバム)『慈愚挫愚 参 -夢幻-』がオリコン週間アルバム・チャートで初登場3位を獲得、昨年11月には初の日本武道館での単独禊(ワンマンライヴ)を成功させ、キャッチーかつユーモアに溢れた孤高の世界観で参拝者(ファン)を増やし続けている-真天地開闢集団-ジグザグ。この度の最新作『慈愚挫愚 四 -最高-』は、バンドとして〈最高〉の状態にある今の勢いを象徴すると同時に、全楽曲の詞曲を担う命の内面にも直結する作品になったようだ。

 「アルバム名は毎回、自分たちのそのときの状況から付けていて……まあ1枚目は〈大殺界〉だったんですけど(笑)、2枚目は新境地の曲が多かったから〈真天地〉、3枚目は急に芽が出て夢のような気分だったから〈夢幻〉。で、今回は何がいいかをメンバーに訊いたら、影丸が冗談で〈最高!〉って言いだして。でも意外といいなと思ったんですよね」(命 -mikoto-、ヴォーカル)。

 「バカっぽいけど、僕ららしさはいままででいちばんあると思う。これ以前のタイトルが厳格な感じだっただけに」(影丸 -kagemaru-、ドラムス)。

 「命さまは優しいし、普段からお調子者なところも含めてすごく明るくて、基本プラス思考なんですよ。今回は命さまのそういう部分がいちばん出ているアルバムだと思います」(龍矢 -ryuya-、ベース)。

-真天地開闢集団-ジグザグ 『慈愚挫愚 四 -最高-』 CRIMZON(2023)

 そういった彼のポジティヴさがもっとも表れているのが、シンプルかつ快活なロックンロール“最高だZ”。平凡な日常やツキに見放された状況を笑い飛ばすような、あっけらかんとしたフィーリングが実に気持ち良い。

 「命さまと移動していたとき、通勤ラッシュで大変そうなサラリーマンの人たちを見て、〈ああいう人たちを応援する曲を作りたい〉と言っていたことがあって」(龍矢 -ryuya-)。

 「この曲はアルバム・タイトルが決まる前から作っていて、もともとは“笑っちまうZ”という曲名だったんですけど、偶然にもサビの最後に〈最高だZ〉というワードがあったので、これはいいなと。大変な毎日を送っている人への応援ソングというか、どうしようもなく避けがたい嫌なことがあっても〈最高だZ〉と言って切り抜けていこうぜ、っていう曲ですね」(命 -mikoto-)。

 さらにオリエンタルな旋律に乗せて〈生〉の希望を伝える“生きて”には、バンドや周りの環境の変化を経て改めて見つめ直した、彼の人生観が反映されている。

「最近、著名人の方がみずから命を絶ったというニュースを見て、すごくショックを受けたんですね。その方は傍から見たら成功者なわけですけど、みずから命を絶ったということは、気持ち的には幸せではなかった。自分も昔は〈売れたら幸せなんだろうな〉と思っていたし、確かにいまはバンドが人気になって、お金も入ってきたけど、幸福度がすごく上がったかというとそうでもなくて。〈じゃあ幸せってなんだ?〉と考えることが多くなったんです。自分もお客さんも、人生にどんな未来が待っているかなんてわからないじゃないですか。だからせめて笑って生きていきたいなと思って」(命 -mikoto-)。

 その他にも、上京物語風の語りが笑いを誘う“おっかちゃん”、〈先代命様 推定14歳〉が作詞・作曲した謎のフォーク・ソング“どんぐり”といったジグザグらしいシュールな迷曲がある一方で、〈愛すべき不格好な翼で 羽ばたいてゆけ〉というフレーズが背中を押してくれる“Mr. Idiot”、命のエモーショナルな歌声が映える“Drip”、王道のパワー・バラード“Stay with me”など、わかりやすくカッコいい楽曲が多く並ぶのも本作の特色だ。

 「過去の楽曲はちゃんと理解できてなかったことが多かったんですけど、今回のアルバムは歌詞がすごくストレートで、僕の知能でも理解できます(笑)」(影丸 -kagemaru-)。

 「今回は相手に何かを伝えることをテーマにした楽曲が多いので、おのずと歌詞もわかりやすいものになりましたね。それとサウンド的にも“Sha. La. La.”以外は生で演奏しているから、よりストレートにバンド感が出ました」(命 -mikoto-)。

 シリアスな楽曲もコミカルな楽曲も雑然と並んでいて、次に何が飛び出すかわからないおもしろさとエンタメ精神に満ちた本作は、彼らの真骨頂にして〈最高〉を更新した作品と言えるだろう。

 「いままでのジグザグはわかりにくかったと思うんですよ。よく〈フタを開けてみたら良かった〉みたいに言われるんですけど、そのフタ自体が誰も手を伸ばさないようなフタだった(笑)。だから、いまは〈わかりやすさ〉も必要だなと思っています。その点、今回はアルバムのタイトル、CDジャケットのデザインやアーティスト写真の雰囲気など、これまでよりもとっつきやすいものになったかと思いますね」(命 -mikoto-)。

-真天地開闢集団-ジグザグの作品。
左から、2019年作『慈愚挫愚 壱 ~大殺界~』、2020年作『慈愚挫愚 弐 ~真天地~』、2022年作『慈愚挫愚 参 -夢幻-』(すべてCRIMZON)

-真天地開闢集団-ジグザグの過去作。
左から、2020年のミニ・アルバム『ハキュナマタタ』、2022年のライヴ映像作品「全国悪霊退治 -夢幻-」、初の武道館公演を収めた2023年の映像作品「日本武道館単独禊『慈愚挫愚』」(すべてCRIMZON)