社会に対して言い切れないこと、立場をはっきりさせられないこと
――今回のボーカル曲も印象的で、前作より歌詞に重みを感じました。3曲とも古賀くんが作詞作曲を担当していますが、前作から心境の変化があったのでしょうか。
古賀「この3曲に関しては、自分がずっと考えてたことを形にしました。今回ようやく自分が歌いたいことが見つかったというか。でも、誰かに届くように、という意識はしていなくて、自分が思うことを突き詰めたら誰かに届くんじゃないかと思ったんです。自分が考えていることをバンド名義で出していいのかなっていう心配はあったんですけど」
――そのあたり、メンバーはどう思っていました?
舩越「古賀くんの曲は大きいことを歌っているけど、身近でもある。誰にでも当てはまることを歌っているので、僕が考えていることを言ってるみたいな感じがあって。それがすごいなって思います」
平野「そうなんですよ。“そうはいっても”のデモを聴いた時、古賀に〈すごい歌詞やな、俺が考えてたことにならへん?〉って言いました(笑)」
古賀「みんな、ありがとな(笑)」
――“そうはいっても”は今の社会に対する古賀くんの想いが綴られた曲ですが、発表するかどうか悩んだそうですね。
古賀「アーティストとして〈社会に対して自分はこう思っています〉って言う必要があるんじゃないかなっていう気持ちがちょっとあって。自分がそういうアーティストにすごく憧れるところがあるんですよね。
でも、自分はあんまり社会のことを知らないというか、〈絶対こう!〉って言い切れないところがある。そんなふうに、僕と同じように言い切れなくて悩んでる人もいると思うんですよね」
――そういう人は多いでしょうね。
古賀「そういう人って、はっきりした主張を持った人に出会った時、〈自分はダメなんじゃないだろうか〉って思ってしまう。そういう人たちに対して〈大丈夫、俺もそうだから〉って歌いかけるアーティストがいてもいいんじゃないかと思ったんです。
でも、この曲を聴いた人に〈自分の立場をはっきりしてないなんて逃げてる〉って思われるかもしれない。僕もそうかもしれないと思うところもあるから、発表するかどうか悩んでいた時期があったんです」
――最近の世の中は白黒はっきりさせないといけない空気になっていますからね。そんな空気を窮屈に感じている人は多いと思うので、強いメッセージを発信するのとは別に、こういう弱さを表現するのも大切ですよ。
古賀「あんまり自分の考えを押し付けないようにしよう、というのは意識していましたね。“そうはいっても”は〈メッセージを伝えるのは難しい〉という曲なんですけど、“未来”も自分が思っていることを書いた曲で〈今何が起こっているのか、ちゃんと見ようよ〉と歌っているんです。でも、見るのがしんどい人もいるじゃないですか。だから、最初は〈できるだけ目をそらさないようにして 世界を映し出せ〉という歌詞だったんですけど、最終的に〈できるだけ目をそらさないようにして 世界を映し出すことができたら〉っていう風にしたんです」
――命令口調はゴリラ祭ーズに似合わないかもしれないですね(笑)。
もっと歌っていこう
――もう一曲のボーカル曲“秘密”はちょっと異色の曲ですね。これまでのゴリラ祭ーズの曲にもなかったような、しっとりとした大人っぽい曲です。
古賀「歌モノは“そうはいっても”と“未来”だけにする予定だったんです。対になるようなこの2曲を入れたら良い感じになるかな、と思って。“秘密”はアルバムのことは考えずにポロっとできた曲で、去年の秋ぐらいにバイト中に思いつきました」
――古賀くんがガットギターの弾き語りで歌っていて、そこにリコーダーやメロディカのソロが入る。ギター一本で聴かせられるような曲を、バンドのアレンジにするのは難しかったのでは?
古賀「本当に難しかったです(苦笑)。おっしゃる通り、ギター一本で行こうかな、とも思ったんですけど、やっぱりバンドでやりたいと思って。この曲はアルバムで唯一、3人で集まって一発録りしました。1日だけ3人で僕の家に泊まれる日があって、その時に3人でアレンジを考えて家で録音したんです」
――この親密な雰囲気を出すには、3人で一緒にやったほうが良いかもしれないですね。古賀くんの歌声の魅力も引き出されていますが、古賀くんの歌声はバンドの音にあってますよね。朴訥としていて、どこか安心できる。
古賀「リコーダーと鍵盤ハーモニカが高い音域の音やから、僕の低い声がいい感じで混ざっているのかもしれないですね」
平野「今回のボーカル曲3曲を聴いた時、どれも声の質感が違うなって思いました」
古賀「お、歌い分けられるようになってきたんかな(笑)」
――ボーカリストとして覚醒し始めている?
古賀「前のアルバムより、歌うことへの抵抗感はだいぶ減ってきた感じはあって。いまバンド内で〈もっと歌っていこう〉っていう話をしているんです」
――歌モノが増えるのも良いですね。