Page 2 / 3 1ページ目から読む

原作とは違う、アニメ独自のギターヒーロー像

ここで注目したいのが、「ぼっち・ざ・ろっく!」ならではの複雑に絡み合った〈ギターヒーロー〉像だ。実は、原作漫画とアニメとでは〈ギターヒーロー〉の意味合いがかなり異なる。

アニメで大部分の楽曲の編曲を担当した三井律郎はメタルをあまり意識しておらず、右チャンネル=後藤ひとり側のギターも、「みんなと一緒ならめちゃくちゃ弾ける」下北沢系ロックならではのギターヒーローという作りになっている。

しかし、原作で音楽監修を務めるinstantは、「当時 吹奏楽、クラシックしか聴かなかった自分がMETALに道を踏み外した原因のアルバム Dream Theater許さん」(2021年12月1日のポストより)と述べているように、どちらかといえば90年代以降のテクニカル/プログレッシブなメタル系ギタリストを意識している模様。アニメ版「ぼっち・ざ・ろっく!」では、以上のような〈ギターヒーロー〉像が混ざり合った結果、独特のミクスチャー感覚が生まれている。

また、「ギター・マガジン」2023年8月号での三井のインタビューで述べられている以下のくだりは、こうした文脈の交差関係をよく表している。

「例えば、アニメ本編では後藤ひとりが“給食中にデスメタルを流す”シーンもあるんですけど、デスメタルのテクニックはギター・ロックとの文脈と混ざりづらいし、どんなテクニックを使ったらいいかは試行錯誤していきましたね。だけど、最近の弾いてみた動画の子たちは、テクニック全盛りみたいなフレーズを普通に弾くことも多いので、後藤もそこは通っていて、何でも弾けるはずだなと解釈しました。」

斎藤圭一郎, 青山吉能 『ぼっち・ざ・ろっく! VOLUME 1』 アニプレックス(2022)

アニメ最終回のハイライトとなった“星座になれたら”のギターソロも、ボトルネック奏法で速弾きする描写が原作漫画にあったため、このようなフレーズになったのだという。こうしたディティールが間接的にアニメの音楽にも影響を与え、様々なジャンルと文脈が複雑に絡む音楽性へと結びついたのだろう。「ギター・マガジン」での楽曲解説でたびたび述べられているジャズ/フュージョンからの影響や、中華風音階(ポストパンク〜エモ〜邦楽ロックの系譜)とメタル寄りの流麗なリードギターの融合など、結束バンドの音楽は脱ジャンル的なロックとしての面白さに満ちていて、それが多様な音楽文脈に接続しうる間口の広さを生んでいる。