©Koury Angelo

他の誰のものでもない、自分のレコードとテープのすべて――自身と音楽との関係性を掘り下げたフレッシュな冒険活劇が開幕。灰にまみれたゴミの中からこの男はいつだって宝石を拾い上げる!

 「100%自分らしいレコードを作ることが重要だと感じた。どういうわけか、今回のアルバムは完全にパーソナルなものにしたいと思ったんだ」。

 説明不要のサンプルデリアを紡いで独自の揺るぎないステイタスを築いているDJシャドウがニュー・アルバム『Action Adventure』を完成した。メジャー離脱後の2014年には個人レーベルのリキッド・アンバーを設立し、2016年の『The Mountain Will Fall』からは王道ヒップホップの殿堂=マス・アピールを経由して数年おきに作品を出している彼だが、今回の新作は2019年の2枚組『Our Pathetic Age』以来となる。

DJ SHADOW 『Action Adventure』 Liquid Amber/Mass Appeal(2023)

 2020年3月、その前作にまつわる欧州ツアーからロックダウン前ギリギリのベイエリアの自宅に戻れたものの世間の混沌に衝撃を受けた彼は、新しい音楽を作るどころか、コンテンポラリーな音楽を聴くことすらできなくなっていたという。

 「まるで出てくる音楽が、あのカオスや大騒動に汚染されたみたいに思えた。一時的にノスタルジアに浸る必要があったんだ」。

 そんなわけで、自身が子どもの頃から親しんできた音楽の世界にストレスなく浸っていた彼が創作意欲を取り戻したのは1年後、昔のラジオからミックス・ショウを録音した200本ものテープをeBayのオークションで入手した時だそう。そして2022年の1月1日、シャドウはアルバムの制作を開始した。創作のガイドとなったのが、SFコミックや野球カードに夢中だった少年時代にラジオ番組から好きな楽曲をカセットテープに録音していた記憶、グランドマスター・フラッシュやパブリック・エナミーを初めて聴いた思い出、冷やかしでビデオショップをうろついていた時代の平凡な日常……そうしたノスタルジックな旅であったことは間違いないだろう。ただ、今回のアルバムがレトロな感傷のコラージュになっているのかというと、当然ながらそれは真逆である。

 『Action Adventure』は先行シングルであった“Ozone Scraper”で幕開け。ジミ・スメン・プロジェクトの“Katsu!”(80年)というフィンランドのシンセウェイヴ音源をネタ使いした同曲は、過去と未来がコラージュされたどこにもないSF世界のエントランスだ。続く“All My”では、作中での数少ない〈声〉となる〈all my records and tapes...〉のフレーズがジュークのように刻まれながら、シャドウ自身のステイトメントかのように響いてくる。8分半に及ぶ“Time And Space”は宇宙的なニューウェイヴ風味で、野太いベースがウネウネと歌いまくる“Craig, Ingels, & Wrightson”、80sエレクトロ・ファンクの“Witches vs. Warlocks”、ドラムンベース方向に駆け出す“A Narrow Escape”などグルーヴに芯を通したようなダンス・トラックが連発される前半は興奮の連続だ。

 折り返しに置かれた、これまた先行曲の“You Played Me”は、件のeBayで買ったテープに触発されたというブラコン調のトラック。当初はゲスト・ラッパーが入る可能性も排除してはいなかったものの、自分のコレクションからネタのオーディションに没頭してこのビートを作ったことで、客演ナシの作品にするというヴィジョンもはっきり固まったのだという。

 ディストーション・ギターのループがビッグ・ビートのように轟く“Free For All”、ダークで重々しい“The Prophecy”、そしてハドソン・モホークを連想させなくもない“Fleeting Youth”からの終盤は、パーカッションとシンセの不健康なコラージュ“Reflecting Pool”、チップマンクでメロウな“Forever Changed”、808印の瞬く“She’s Evolving”など、多種多様なビートの爆発が冒険活劇のエンディングへとグイグイ引き込んで離さない。

 内向的なプロセスを積み重ねて無邪気にエナジーを豪快に外へと放つ『Action Adventure』。かつてなくダイナミックな彼の手捌きに興奮必至の傑作だ。

DJシャドウの作品。
左から、96年作『Endtroducing.....』(Mo’Wax/Island)、2002年作『The Private Press』、2006年作『The Outsider』、2011年作『The Less You Know, The Better』、2012年のベスト盤『Reconstructed: The Best Of DJ Shadow』(すべてIsland)、2016年作『The Mountain Will Fall』、2019年作『Our Pathetic Age』(共にLiquid Amber/Mass Appeal)