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「いつか日本語で歌ってみたい」

ステージでギターをかき鳴らし、歌い上げる姿は堂々として見えたが、いざMCとなると途端にシャイで〈陰キャ〉(本人談)な一面が覗くのもギャップがあって魅力的。「こんにちは、シンガーソングライターのイ・スンユンです。お会いできてうれしいです」と日本語で挨拶し、会場のファンが大喜びすると「ここに書いてあるのを読んだだけです。〈今日は天気がいいですね〉。ここまで書いてあります」と照れ笑い。日本に来る前、いろんな人から「日本でのライブは(観客が)静かだから覚悟した方がいい」と言われていたそうだが、この日の客席の盛り上がりを見て、「ということは、韓国から来た人が多いということですかね」と苦笑しつつも、イ・スンユンのライブに慣れていない日本のファンのために「今日は普段できないような声を出したり、飛び跳ねたり、奇声を上げたり、全部やってみてください」と提案した。

MCを挟んでの“Some Some Some”では、韓国語の〈ヌグ〉を日本語の〈誰〉に替えて歌うサプライズも。そこから2020年まで活動していたバンドAlary-Kansion時代の曲“Gainism”まで、ブリットポップを聴いて育ったというイ・スンユンらしい構成の曲が続く。このパートは本人も「ここは特に集中度が高かった」と語った箇所。「ライブハウスがもたらす集中だったのか、それとも観客による集中だったのかはわかりませんが、本当に全員が一体となってライブに集中していることが感じられて、とてもよかったです」とライブを振り返った。この日のライブで一番印象に残ったという“The People of Historic Site”は「集中という単語そのもののような感覚」だったと語った。また、続けて歌われた“Even If Things Fall Apart”については「いつか日本語で歌ってみたい」とも。原題は日本語に訳すと〈廃墟になったとしても〉。廃墟になった家屋を見てここにも愛があったのだろうかと想像しながら時間の流れと愛について考えるような曲で、もしこの曲が日本語になったらどんなふうに歌われるのだろうと想像するだけでも期待が膨らむ。

韓国のライブではあまりMCはしないそうだが、日本でもトークは最小限。それでも、「日本のライブは通訳さんを介する必要があったので、むしろたくさんしゃべったほう」なのだとか。当日のMCで「前に(通訳ありで)話した時は続けて1分くらいしゃべり続けてしまったので、今回は事前に練習してきました」と、通訳を介してトークする秘訣を明かした。客席から日本語で「かわいい」「かっこいい」という声援が飛ぶと、「わからない、訳してください」と困惑する一幕も。「事前にどんなライブにしようか一つも考えて来なくて、実際にステージに上がって感じるままにやろうと思っていたんですけど、思っていた以上に楽しいですね」と、日本でのライブを満喫した様子。ライブの盛り上がりだけでなく、初めて日本のライブハウスを体験して音響のよさにも感動したと後に語っている。「リハーサルでラフに一曲歌ってみて、バンドのメンバーたちと〈なんだ、これは!〉と驚いたんですよ。韓国で僕たちがやってきたライブの設備と変わらないのに、なんでこんなにサウンドがいいのか、しばらく楽屋でバンドメンバーと語り合ったことを覚えています」。

ツアータイトルにもなっている“Docking”では客席のペンライトが一糸乱れぬ動きを見せ、疾走感あふれる“Unspoken”では韓国でのライブに負けないくらいのコール&レスポンスでこの日一番の一体感を見せる。続いて歌われた“Naragaza”は、韓国語で〈飛んでいこう〉の意味。ポジティブで力強いメロディに後押しされるように、会場の熱気もとどまるところを知らないほどの高まりをみせた。“Pricey Hangover”では〈二日酔いなしに夢を見たい〉とリフレインするサビのパートで会場が一体となって再びコーレスし、最後にはまさにゆめのかけらを集めたような曲“Piece Together Scattered Dreams”で締めくくった。アンコール2曲を含めて全21曲、2時間あまりのライブで強烈な印象を残したイ・スンユン。まるで韓国でライブを見ているかのような盛り上がりを体感できたことも含めて、韓国の今後のロックシーンを牽引していくであろう彼の貴重な日本初ライブだったのではないだろうか。