トロット=日本で言うところの演歌、そんな認識を持っている方も多いのではないだろうか。確かに日本の演歌や歌謡曲をリファレンスにしている部分も大いにあるが、その変遷や発展は独特で、実はとても奥深い音楽分野でもあるのだ。
そんなトロットに興味を抱くリスナーが、ここ日本でも少しずつ増えている印象がある。そこでMikikiでは、トロットに関するビギナーズガイド的なテキストを音楽ライター、まつもとたくおに依頼。近年の動き、代表的なアーティストやヒットアンセムなどに触れることで、これまでの、そしてこれからのトロットに興味が湧いてくるはずだ。 *Mikiki編集部
現在のトロット=演歌とは似て非なるもの
〈トロット〉をご存じだろうか。韓国に古くからある庶民的なサウンドを指すのだが、その特徴に関しては、日本における演歌の様式美に似ているとの見方が一般的だ。この手の楽曲は主にメインリスナーとなる中高年層に向けた音楽として作られてきた。だが、近年は急速な洗練化のおかげで若い世代の支持も獲得。さらに2023年あたりからは日本においても注目を集めている。
2023年末に日本で放送が始まったオーディション番組「トロット・ガールズ・ジャパン」(WOWOWとABEMAで全話同時無料放送)は、こうした流れを後押ししたコンテンツと言えよう。同番組は、韓国の多くの人たちがトロットを〈かつて一世を風靡した歌謡史に残る名曲〉と解釈している点に着目して企画されたもので、過去の名曲を未来へと歌い継ぐ最高のディーバを選考する過程は、韓国のトロット系オーディション番組の雰囲気に近い。
4人の韓国人男性で結成されたK4も、日本でのトロットの定着に一役買ったグループである。2023年10月に日本進出を果たし、約3ヶ月も滞在。全国各地で地道にPR活動をおこなった結果、USEN洋楽リクエストランキングで1、2位を独占するほどの人気グループとなった。レパートリーは韓国の人気ドラマの関連曲が中心だが、トロット系オーディション番組でトップに輝いたメンバーがいることもあり、歌唱やビジュアルからはトロットならではの香りも漂う。今春の日本正式デビュー後は、もっと大きな存在になりそうだ。
以上のように、日本でもスポットライトが当たる機会が増えてきたトロットだが、そのひな型となるものができたのは1930年代と言われている。日本の(のちに演歌と呼ばれる)大衆歌謡の影響を受けているため、初期はメロディラインやアレンジ、歌唱の面で日本のそれと似ていたのは否めない。しかしながら、以降は欧米のエッセンスや韓国特有の情感を取り入れながらオリジナリティを模索。そうした努力の積み重ねが功を奏し、現在では〈演歌とは似て非なるもの〉と認識されるようになったのだ。
よりカジュアルな装いに
トロットのカジュアル化が進んだのは、2000年代に入ってからである。その流れを加速させたのは、女性歌手のチャン・ユンジョンが歌った“オモナ!”(2003年)だと言っても異を唱える人はいないはずだ。こぶしをきかせた歌い方やヨナ抜き音階を使ったメロディラインは従来のトロットとあまり変わらないものの、思わず口ずさみたくなるようなサビや心地よいテンポなどがフレッシュに響き、大ヒットを記録。彼女が生み出したライトな感覚で聴けるトロットは、後進の手本にもなった。
もちろん男性も負けてはいない。パク・サンチョルの“無条件”(2005年)や、〈第2のチャン・ユンジョンオーディション〉で選ばれたパク・ヒョンビンの“シャバン シャバン”(2008年)などがヒットチャートにランクイン。いずれの曲もリズミカルで楽しくカラオケ向きだったからこそ、幅広い世代に愛されたのだろう。