Photo by Lewis Evans

オアシスの再結成ツアー〈Live ’25〉がついに開幕した。昨年8月に突如発表されたリユニオンとツアー開催から約1年、ノエル・ギャラガーとリアム・ギャラガーはそれぞれのソロワークを経て、再びオアシスの屋号を掲げて戻ってきた。

今年10月には来日公演追加チケットの販売も決定!)も控えている再結成ツアーより、7月4日に行われた英カーディフ公演の公式レポートが到着した。なお本文では今回のツアーメンバー全員については言及されていないので補足するが、ギターにはポール・“ボーンヘッド”・アーサーズとゲム・アーチャー、ベースにアンディ・ベル、そしてドラムスにはリアムとジョン・スクワイアのコラボアルバムでも演奏していたジョーイ・ワロンカーが参加している。 *Mikiki編集部


 

解散しても一切揺らがなかったオアシスへの信頼

待ちかねたファンを前に、〈THIS IS NOT A DRILL〉という言葉が不穏なトーンでアナウンスされ、スピードメーターが映り、さあ、ついに、“Fuckin’ in the Bushes”が流れた! 〈ここからがThis is Historyだね〉と心の中で呟くこちらの思惑を容赦なく上書きするかのように、This is it, This is Happening, Cardiff……そんな言葉たちがコラージュのように激しく背景に映し出される。

そして16年ぶりについに、オアシスがステージに登場。なんと、ノエルとリアムが歩きながら繋いだ手を高く挙げているじゃないか! ノエルがロマンティストでありつつ演出じみたドラマチックさが嫌いなことは、ファンは周知の通り。きっとリアムがその場で思いついて繋いだんだろう。でも、兄貴もまんざらではなさそうな様子が遠目でもわかる。ああ、鳥肌が立つほど懐かしい、この空気感、このコンビネーション! あの二人が同じステージに立っている! ついにオアシス復活だ!

そうやって目を喜ばせてくれた後、次のポイントは〈どの曲を最初にやるか〉だ。始まったのは、“Hello”のイントロ。2ndアルバム『(What’s The Story) Morning Glory?』の冒頭を飾る曲だ。〈Hello, hello, it’s good to be back, good to be back〉――なるほどなあ! これほど2025年現在の彼らの状況と気持ちを象徴するのにぴったりの曲だとは、もちろん30年前に聞いた時は想像もしなかった。タイムマシンに乗って昔のノエルに取材して、あなたたちは2025年に再結成をして、その初日の冒頭で“Hello”をやります、その時点で歌詞に会場中が最高に感動するんです、と話したら彼はどんな顔をするだろう。〈よくわからないけど、まあな。オレは天才だからな〉――そんな返答が聞こえてくるようだ。

そして考える。仮に2009年に兄弟ゲンカで解散することなく、彼らがあのまま続いていたとしたら。2025年のオアシスは、私が今夜見た英カーディフでの再結成ライブのような唖然とするほどの感動を果たして生み出してくれただろうか。続けることが目的と化した後、つまらないアレンジを施した昔の名曲を消化試合のように往年のファンにだらだら届けていたとしたら、そんな世界線にいるオアシスは私たちの知っているオアシスではない。

それくらい、オアシスファンのオアシスへの期待値は、それが私たち自身の青春の風景と分かち難く結びついているからこそ高値安定を保ち続ける。当然、あれから16年の時が経とうとオアシスへの信頼は揺らぐことなど一切ない。

 

Photo by Angus Jenner

私たちが見たかった、ノエルとリアムがやりたかったオアシスのライブ

結論から書こう。16年の時を経た再結成初日のオアシスは、エベレストよりもはるかに高い我々の期待値を超えてなお素晴らしかった。全くがっかりしなかったどころか、ああ、この瞬間に結実するために解散後16年間のノエルとリアムそれぞれの活動があり、それを見届けてきた私たちが存在したのだなと、流れた時間の全てをついに種明かししたかのようだ。

なにしろ、登場曲の“Fuckin’ in the Bushes”を除けば、合計23曲のうちデビュー作『Definitely Maybe』から6曲、2nd『(What’s The Story) Morning Glory?』から8曲、3rd『Be Here Now』から3曲。それに加えて1994年のシングル“Whatever”と、1994年から1995年にかけてのシングルのB面曲を5曲。一言で説明すると、今回のライブで選ばれたのは全て90年代半ばの曲だった。

Photo by Harriett Bols

そうなのだ、ボーンヘッドがギタリストとして名を連ねた時点で気づけばよかった。今回の23曲は全て、ボーンヘッドがいた時代の曲だ。初期衝動と急激な人気上昇、そして自らが振りまく喧騒とがごちゃ混ぜになり、あの頃のオアシスは天下無敵だった。たとえようがないほど特別な存在だった。

思い出してもみてほしい、リアムがやりたがってきた再結成を、ノエルは最後まで否定していた。ノエルが最終的に首を縦にふった理由は、他でもない、あの頃の曲を再結成して今また演りたい、あの頃を知らない世代へ伝えたいと思ったからだろう。その境地に至った理由は、タイミング的に考えるとノエルが自分のルーツに触れるような4thソロアルバム『Council Skies』を作ったことが起点にあるはずだ。

マンチェスターのバーネイジの公営住宅で、夢も希望もない中で窓の外に広がる空(Council skies)を見ていたノエル少年。彼が音楽の中に希望を見つけ、それを追い続けたからこそあの素晴らしき1994年から1997年までの無敵のオアシス黄金期がある。

そんなことを心の片隅に置いていると、再結成ライブで演奏された23曲がびっくりするほどオリジナルそのままのアレンジだったことに、おのずと納得がいくく。“Supersonic”のイントロが長かったことなどを除けば、あからさまにオリジナルを逸脱した曲はなかった。つまり曲そのものの持つエネルギーが損なわれることなく伝わるからこそ、オレの曲とあいつの声があればオアシスだ、というノエルの確信までもこの日のライブからは届いた。原点回帰の再結成。しかも年齢と経験を重ねた演奏と歌声で原点回帰を果たしたからこそ、いい意味で空間が多めだったあの1stアルバムの曲たちの音も、3本のギターが重なる太い音でそのまま弾かれて、嘘がないままスタジアムクラスの曲として生まれ変わる。

Photo by Lewis Evans

しかも、この時期の曲は基本的にノエルが作曲し、リアムが歌うものが中心だった。つまり、ノエルはステージの上でギターの演奏に集中し、リアムはマイクと格闘するかのように腹の底から声を放つ必要がある。昨夜の兄弟は、それぞれのソロ活動ではついぞ見られない様子を見せてくれた。

つまり、ノエルはソロの時よりもずっと楽しげにギタリストとしての職務に専念し(とはいえ、オーディエンスを見守る仏のような微笑みを浮かべつつギターを弾くさまは新鮮ではあった)、リアムは兄が書いたロックンロールトラックを、歌声でねじ伏せるかのようにマイクと格闘していた。それぞれのソロライブを見た時に少しずつ物足りなかった何かが、オアシスとしてしっかりと充足し放たれている様子は、想定していなかった分だけ正直目を見張った。ああ、私たちはこれを見たかったんだな。そして、彼ら自身もこれをやりたかったんだろうな。これでいいのだ。これが、いいのだ。こういう再結成で、本当に良かった。