和久井沙良がセカンドアルバム『Into My System』を完成させた。dawgssの森光奏太と上原俊亮(2023年12月30日に上原が脱退し、現在dawgssは森光のソロプロジェクトに移行)とのピアノトリオを軸に、クラシックやジャズ、さらにはハードコアに至る多彩な楽曲を収録して、作曲家・鍵盤奏者としての力量を示したファースト『Time Won’t Stop』の作風を引き継ぎつつ、新作では和久井自身による打ち込みのトラックメイクの割合が増加。キャサリンとのポップスユニットLioLanのEP『UNBOX』の制作を経て、盟友であるシンガーのmimikoを迎えたグローバル仕様のエレクトロポップをソロでも展開している。Ado、yama、TK from 凛として時雨など、サポートミュージシャンとしても第一線で活躍している和久井が、自らのソロ作で楽器演奏にこだわらず、トラックメイクに向かったというのは、彼女がラジカルで現代的な作曲家であることを改めて印象付ける。
もちろん、『Into My System』はバンドのアンサンブルも存分に楽しめる作品であり、森光と上原に加え、本作にもギターのイシイトモキやバイオリンの須原杏といった信頼の置ける演奏家が参加し、同じく前作に引き続き参加のPecori(ODD Foot Works)とermhoiがラップや歌で楽曲のバラエティの増加に貢献。さらに本作には和久井が「一方的にファンだった」と語る中村佳穂が参加し、即興的な演奏・歌唱と緻密に構築されたコンポジションがスリリングにせめぎあう名曲“行間 feat. 中村佳穂”は間違いなくアルバムのハイライトだ。今後さらに活躍の場を広げるであろう才能に、音楽家としての現在地を聞いた。
ピアニストだからってピアノを弾かなくてもいい
――前作がバンド演奏で仕上げられていたのに対して、新作の特に前半には打ち込みのトラックが並んでいます。この変化の背景を教えてください。
「今作の大きな変化は〈自分がピアノを弾かない曲がある〉っていうことですね。もちろんピアノは自分の得意なことの一つではあるけど、2023年はトラックものへの興味が強かった1年で。
ピアノはタッチ感やプレイスタイルとかで魅せる楽器だけど、トラックメイクはピアノと違う形で無限の可能性を秘めてるので、シンセサイザーや打ち込みだけで音楽を作ってみたい欲が強くあったんです。mimikoの声はトラックとの親和性がいいだろうなと思ったり、いろいろな要素が積み重なって、トラックものが増えました」
――去年でいうと、LioLanの制作も大きかったでしょうね。
「大きかったですね。LioLanで自分のトラックが作品として世に出ることによって、いろんな声を聞いて、意外とこういうやり方も自分に合ってるんじゃないかと思えるようになったので。
最初の構想として、トラックもののアルバムと、ピアノを使ったアコースティックなアルバムと、2枚出してみたいっていうのがあったんです。でもそれはあまりにも大変だとやり始めてから気づいて、一つのアルバムになったんですけど、それはそれで他にない感じのアルバムになったから、面白いとは思ってます」
――そもそもなぜトラックメイクに対する興味・関心が強まったのでしょうか?
「やっぱり人間はその周りにいる人にすごく影響を受けると思っていて。2023年に関わった人にビートミュージックを作る方が多かったので、それがそういう音楽に興味を持った要因の一番大きなものになるかな。市川(豪人)くんもその1人だし、yamaにもTKさんや、他にも参加したアーティストの楽曲にも影響は受けていると思います。
あと最近は楽器を弾くことをメインでやってるように見える人でも、急にトラックものの音源をリリースしたりするじゃないですか。例えば、トム・ミッシュがエレクトロニック系の音源を出しているのを見て(スーパーシャイ)、ピアニストだからピアノを弾かなきゃいけないって縛りもないし、もっと自由にやってみようと。自分は〈曲を作る〉ってことがやりたいから、打ち込みも一つの手段としてやってみました」