©Reuben Bastienne-Lewis

トム・ミッシュのダンス・ミュージック・プロジェクトが贈る、瑞々しくも鮮やかなグルーヴの結晶、その名も『Happy Music』!  キャッチーな煌めきと圧倒的な昂揚感を纏った極上のハウスで踊ろう!

ハッピー・ミュージックを歌おう

 2014年の『Beat Tape 1』とそれに続く2016年の『Beat Tape 2』で実験と試行錯誤を繰り返し、2018年にリリースしたファースト・アルバム『Geography』で一気にブレイクを果たしたトム・ミッシュ。サウス・ロンドンのシーンで育まれた才能らしい、ソウル、ヒップホップ、ジャズをはじめとする多様な音楽をルーツに持つ比類なき音楽性は、FKJやユセフ・デイズといった同時代に活躍する若きアーティストから自身が敬愛するジョン・メイヤー、ブラジリアン・ポップスの巨匠マルコス・ヴァーリのようなレジェンドに至るまでさまざまな相手とコラボレーションを行ってきたことで折り紙付きだ。そんな彼がここ数年の世界的なパンデミックのなかで自身の音楽を改めて見つめ直したことで、ダンス・ミュージックにフォーカスした本プロジェクト=スーパーシャイは誕生した。

 複数の楽器を使いこなすマルチプレイヤーであることからビートメイキングに関してもお手の物で、これまでの作品にも“Disco Yes”や“Beautiful Escape”といったダンス・トラックは存在したが、長い時間をかけて行ってきた従来の曲作りのプロセスから距離を置き、ストレスを感じずに楽しみながら行うというのが本プロジェクトのテーマだという。そして、このプロジェクトでのルールがもう1つ。それは彼がギターを演奏しないこと。肉体性を伴うダンス・ミュージックにおいてギターの音色はきっと語り過ぎてしまうのだろう。その判断はサウンドに見事に結実し、ありふれたこの種のジャンルを新鮮なものとして提示することに成功している。

SUPERSHY 『Happy Music』 Beyond the Groove/BEAT(2023)

 このたびパッケージでリリースされた『Happy Music』のオープニングを飾るのは、2022年4月にリリースされたプロジェクトのファースト・シングルであり、タイトル曲にもなっている“Happy Music”。ズシリと響く太いベースラインが疾走するハウス・トラックにフィルタリングしたヴォーカル・フレーズがリフレインされ、90年代にシーンを席巻したフランス産フィルター・ハウス=フレンチ・ハウスを思わせるサウンドに仕上げている。〈ハッピー・ミュージックを歌おう〉というストレートな歌詞も相まって底抜けに明るいこの新たなアンセムはダンスフロアでの機能性はもとより、日常を彩るような小気味良い軽やかさと耳馴染みの良さが印象的だ。

 続く“Take My Time”は寸止めでカットアップされたヴォイス・サンプルがループする、キャッチーで高揚感溢れるディスコ・チューン。次の“Keep It Rising”でようやく歌詞らしい歌詞が登場するが、それでもやはり〈アガり続けようぜ〉とアジテートしていく。さらにディープ・ハウスの“Don’t Let Go”から“In My Life”にかけて曲間なしで繋がる構成にはDJミックス作品のような統一感を感じることができるだろう。