Three Views of a Music――トリオの肖像
この新しいキーボード・トリオ名であるエル・トリオのエルは、スペイン語の男性名詞につく定冠詞であると同時に、ここではドラマーのオラシオ・エルナンデスの愛称、エル・ネグロのエルでもある、と断言してしまいたくなるほど、このトリオのライヴ盤ではオラシオのドラムが気持ちよく弾ける。気持ち良すぎて、相変わらず(笑)テンポがどんどん上がってくるのが面白いほどだ。
メンバーは、エル・ネグロ&ロビーからの相棒で〈モンケストラ〉でお馴染みのジョン・ビーズリーと、ゴンサロ・ルバルカバのヴォルカンでもオラシオは共演しているベーシストのホセ・ゴラ。ジョンは全体を俯瞰しながら演奏の方向性を決めると同時に、アンサンブルのサウンドを設計していく。オラシオとホセは、直観的にスペースを埋めていく役割をこのライヴ盤では自認しているようだ。
アルバムに収録された楽曲を見て〈エル・ネグロ&ロビー〉時代に念入りに組み立てたアンサンブルの楽曲をトリオでどうやって組み立てるのだろうかと思っていたが、ジョンは、ピーター・アースキンのバンド〈Dr.um〉でのカルテットと同様、キーボードを多用し、サウンドを組み立てて、比較的忠実にかつてのレパートリーのアイデアを守っている。しかしライヴで組み立てられたサウンドを聞いて、これがトリオか? という印象からすれば、守りというよりは意外だという点で攻撃的なアイデアだと感じる。決して新しくはないが、初出がアンサンブルの楽曲をトリオに落とし込むときの手法は、機材の、楽器のアップデートに応じ、これからもどんどん変化していくのだろう。ピアノ・トリオに落とした時のような渋さは、ここにはもうない。
そういう点では、初出がピアノ・トリオ『Surfacing』だったジョンの“Song For Dub”は、〈モンケストラ〉でのヴァージョンを経て、あらたな装いで登場し、うっすら聞こえていたジャコ・パストリアスの“Three Views Of A Secret”的なニュアンスが、オーケストラとはまた違う形でわかりやすく表面化(Surfacing)し、作曲当時のジョンの構想が伺えるようで興味深い。ホセのアプローチによるところも大きいが‥。
この新トリオがパーマネントなものになるのかどうかは不明だが、ジョンのキーボードがオーケストレーションするサウンドを背景にオラシオとホセがダッシュする姿は気持ちがいい。