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新世代の〈ポッププリンス〉と呼ばれ、瞬く間にスターダムにのし上がったシンガーソングライター、コナン・グレイ。彼のサードアルバム『Found Heaven』の、紙ジャケット仕様デラックスエディションによる日本独自企画盤がリリースされた。マックス・マーティンやグレッグ・カースティン、ショーン・エヴェレットら豪華プロデューサーを迎えて、自身の恋愛経験や80年代の音楽にインスピレーションを受けて制作した本作を、音楽ライターの森朋之にレビューしてもらった。 *Mikiki編集部

CONAN GRAY 『Found Heaven』 Republic/ユニバーサル(2024)

 

人生において大切なことを実感するアルバム

自分自身の幸せを求めること。人を愛し、精神的・肉体的な充足を得ること。そして、自らの感情を受け止め、それをしっかりと肯定すること。人生においてこれほど大切なことはないと、このアルバムを聴いて改めて実感することができた。

新世代の〈ポッププリンス〉コナン・グレイのサードアルバム『Found Heaven』。タイトル通り〈天国を発見した〉という尊い体験がリアルかつポップに描かれた作品だ。

 

〈自分は自分〉という現代的かつ普遍的なメッセージ

まずはコナン・グレイのこれまでのキャリアについて簡単に紹介しておきたい。98年生まれのコナンはアイルランド人の父親、日本人の母親を持つ日系アメリカ人。幼少期は広島で過ごし、その後アメリカに戻ったが、両親の離婚や再婚、アジア系のルーツに対する偏見などにより、決して幸せとはいえない思春期を送った。

そんな彼が〈表現〉に興味を持ったきっかけはYouTubeやSNS。日常のなかで生まれる喜怒哀楽、自らのジェンダーやセクシャリティについても発信し、それらを美しくも繊細なメロディとともに描き出す音楽は瞬く間に世界中の支持を集めるようになった。根底にあるのは〈自分は自分であり、どんなカテゴライズも必要としない〉という現代的かつ普遍的なメッセージだ。

2020年に発表されたデビューアルバム『Kid Krow』は全米アルバムチャートで初登場5位。ポップアルバムとしては初登場1位となり、同年の新人として最大のデビュー実績を記録した。

さらに2022年には全米・全英にて同にTOP 10入りを記録した日本デビュー作『Superache』を発表。2023年2月には初のジャパンツアーを開催し、高い評価を得た。 

 

初めての恋愛とその終わりを歌った新作

悲しみや痛みを包み隠さず歌う楽曲によって世界的な人気を得たコナン。3作目のオリジナルアルバム『Found Heaven』はソングライティング/サウンドメイクの両面において、彼のキャリアを大きく変化させる重要な作品となった。本作における最大のインスピレーションは、初めての交際経験と恋の終わりだ。 

「僕はこの1年の間に初めての恋愛を経験したのだけど、うまくいかなかった。でも、そこには祝福すべきところもあって、自分もそういう感情を抱けるんだって認識できただけでも、大きな安心感があった」(「Zach Sang Show」にて/以下同)と語るコナン。

幼少期、思春期の経験から人を心から信頼することができず、「一生恋に落ちることはないんじゃないかとか、自分は愛されない人間なんじゃないか」と思い悩んでいたという彼にとって、愛すべき他者との出会い、初めての恋愛経験はおそらく、人生観を大きく変えるほどの出来事だったはず。それは当然、ソングライティングにも大きな影響を与えることになった。そのことをもっとも端的に象徴しているのが、タイトルトラックの“Found Heaven”だ。

聖歌隊をイメージさせる荘厳なコーラスで始まり、煌びやかなロックサウンドが打ち鳴らされるこの曲でコナンは〈怯えなくていいんだよ/その気持ちは/愛なんだ〉と率直な思いをメロディに乗せている。初めての恋愛に対する不安と葛藤、そして、その感情を認め、受け入れようとする姿を描いた“Found Heaven”は、このアルバムの軸であると同時に、彼自身の人生にとっても大きな意味を持っているはずだ。

恋を失った経験を想起させる楽曲も本作の大きなポイント。たとえばオーセンティックなロックバラード“Forever With Me”では別れた後の〈君〉への思いをストレートに歌い上げている。ドラマティックな旋律とともに〈君はいつまでも僕と一緒〉という思いが響く瞬間は、このアルバムにおけるハイライトの一つだと言っていい。