天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週からちょっと連載のスタイルをマイナー・チェンジしました。〈5曲〉という曲数制限と順位づけをやめて、より自由に、よりジャンル横断的に楽曲を紹介していきたいと思います」

田中亮太「各曲についての僕たちのコメントは短めになりましたが、そのぶん幅広いセレクションを心がけたいですね。というか、これまでは長々と喋りすぎましたよね。主に天野くんがですけど……」

天野「だって好きな音楽の話って長くなっちゃうし、いろいろ言いたくなるじゃないですか(笑)。今後は気をつけます! さて。今週の話題はやっぱり、ディアンジェロがニュー・アルバムをリリースすると匂わせたことでしょうか!」

田中「それよりも、ヤック(Yuck)が解散したことでしょう! 個人的にはメンバーのマックス・ブルームがヤックの結成以前にやっていたケイジャン・ダンス・パーティのほうが思い入れは強いんですけど、ヤックは日本の若いインディー・バンドに与えた影響が本当に大きいんです。Luby SparksやHelsinki Lambda Clubなんかを筆頭に、ヤックへの思いがアツく語られている取材に何度立ち会ったことか。TOWER DOORSの小峯崇嗣くんも、〈僕にとって本当に人生の変わったバンドがいなくなるそうです。またひとつ青春が過ぎていく。ありがとうYuck〉なんてエモすぎるツイートをしていました」

天野「僕は〈ヤックってまだ続いていたんだ〉なんて、ひどいことを思っちゃいました(笑)。それと、最近は訃報が多くて本当に辛いのですが、レゲエの伝説的なディージェイであるU・ロイが78歳で永眠しました……。ビートに合わせて語るように歌う〈トースティング〉というスタイルを確立し、後世に強い影響力を持ったヴォーカリストでした」

田中「ご冥福をお祈りします。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

Syd “Missing Out”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はシドの“Missing Out”。インターネットのメンバーとしても知られるシンガーによる新曲です。彼女は、2017年にファースト・ソロ・アルバム『Fin』を発表しました。それ以降もゼインディスクロージャーリル・ウージー・ヴァートなど、多くのアーティストの作品に客演で参加。彼女の歌が醸す陰りを持ったメロウネスは、他にない魅力がありますよね」

田中「この“Missing Out”は、メランコリックなシンセ・サウンドと無駄を削ぎ落したミニマルなビートが印象的。全体を貫くクールなムードとダビーな音響には、『Protection』から『Mezzanine』期(94~98年)のマッシヴ・アタックを想起したりもしました。〈見逃す〉〈失う〉という意味のタイトルからもわかるように、リリックでは別れた恋人への思慕が歌われているのだと思います。〈別の人生では、あなたはきっと私のものでしょう〉というフレーズがとても切ない……」

 

Conan Gray “Overdrive”

天野「Z世代の感情を代弁するポップ・プリンスことコナン・グレイの新曲“Overdrive”。2020年にリリースしたデビュー・アルバム『Kid Krow』も成功を収めた、現在のポップ・シーンの顔ですね。昨年10月にはラウヴとのコラボレーション・ソング“Fake”を当連載で紹介しました。亮太さんは“Overdrive”を聴いて、〈こんな感じだったっけ?〉と言っていましたね」

田中「SSW/ベッドルーム・ポップのイメージが強いので、EDM調のサウンドに驚きました。ただ、彼のヒット曲“Heather”こそフォーク・ロック・バラードでしたが、もうひとつの代表曲“Maniac”はエレクトロニックな4つ打ちでしたね。今回はプロデューサーとしてモンスターズ&ストレンジャーズ(The Monsters & Strangerz)とジャーマン(German)、クリス・ストレイシー(Chris Stracey)というポップ畑の才能が関わっていて、さらにあのSSWのトバイアス・ジェッソ・Jr.(Tobias Jesso Jr.)も参加しています。コナンは〈現実逃避のために書いた曲。この一年家に一人でいたから、家のなかで踊れるようなものを作りたかった〉と語っていて、コロナ禍の状況を反映した〈うちで踊ろう〉な一曲と言えそうですね」