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 いったいどこから話せばいいのか。ファッショニスタでイケメンで、スウィートな歌声の持ち主で、ダイヴァーシティかつインクルーシヴな感性と、ニュートラルなセクシャリティーを匂わせ、しかも日系男子。いま気になる引っ掛かりポイントを全装備しているかのようなコナン・グレイ。このたび晴れて日本デビューというわけで、突然登場したかのように思われるかもしれないが、実は本国USでのデビューはいまから約5年前の2017年、18歳の時だ。その曲“Idle Town”はSpotifyやYouTubeでそれぞれ1千万回を超える再生数を記録。翌年のEP『Sunset Season』で足場を固めつつ、2020年のファースト・アルバム『Kid Krow』で大ブレイク。全米アルバム・チャートでいきなり5位を記録した。“Maniac”や“Heather”といったシングル・ヒットも人気に拍車を掛けたし、テイラー・スウィフトや朋友ビリー・アイリッシュからラヴコールを受けて、Z世代のニュー・スターとして急浮上。ニュー・プリンスとしてセンセーションを巻き起こした。そんな彼が約2年ぶりに完成したのが、今回のセカンド・アルバム『Superache』というわけだ。

CONAN GRAY 『Superache』 Republic/ユニバーサル(2022)

 というのが、ザックリこれまでの快進撃だが、もう少しルーツを遡ると、98年、アメリカはサンディエゴ州にてアイルランド人の父と日本人の母の間に誕生。幼少期は広島で過ごしたこともあるそうだ。両親は3歳の時に離婚し、父親の仕事の関係で転校ばかりを強いられ、テキサス州に落ち着いてからは白人社会の中でマイノリティーのアジア人、として悩まされたりもしたという。12歳でYouTubeを始めてからは、そうしたバックグラウンドや日々の暮らし、葛藤などを動画で発信。そのフレンドリーで素朴な人柄が人気を呼ぶことに。もちろんシンガー・ソングライターとして彼が創造する音楽からも、それまでに経験してきた孤独や疎外感が聴こえてくるし、その中で培われた繊細な感性や感受性などが瑞々しく息づいている。

 そんな彼のアーティストとしての活動を当初からサポートしてきたのが、共作者でありプロデューサーであり、しばしばギターやシンセ演奏、ドラムのプログラムなども手掛けるダン・二グロ。そう、オリヴィア・ロドリゴの大ヒットしたグラミー受賞アルバム『SOUR』(2021年)をプロデュースした注目の人物だ。コナンが初めてレコーディング・スタジオに入った瞬間から、最新アルバム『Superache』の制作に至るまで、そのダンがガッツリ関わっている。

 とはいえ、時には激情を迸らせたり、ささくれ立ったパンク・ロックのエッジを全開にするオリヴィアとは異なり、コナン作品はといえばむしろ穏やかでニュートラル。前作より少々熱い感情移入も増えたとはいえ、今回の『Superache』でも、シンプルで素朴な演奏をバックに、水中を泳ぐかのように滑らかな歌を聴かせている。抗ったり逆らうのではなく、自身の感情に耳を傾け、流れに身を任せて。

 テイラー・スウィフトやロード、ラナ・デル・レイなどに影響されたというコナンの曲には、当然ながら恋愛や、特に失恋を題材にしたものが多い。ところが〈実は一度も交際経験がない〉と今年の初めに告白してファンを驚かせた。つまりその楽曲で歌われているのは、大半が彼の想像による恋愛というわけだ。その対象は女性であることもあれば、時には男性だったりもする。「僕にレッテルを貼り付けたり、型に嵌めようとしないでほしい」とみずからツイートしているように、恋愛観やファッション、そして音楽にしてもジェンダー・ニュートラル。恋愛体験に基づかないから、こんなにピュアで汚れがなく、美しく響くのだろうか。感情のゴリ押しではないコナンの歌は、しなやかにスルッと人々の心の中に入り込む。

 


コナン・グレイ
98年生まれ、米カリフォルニア州サンディエゴ出身のシンガー・ソングライター。9歳で動画制作を始め、2013年にYouTubeのチャンネルを開設して、2017年に“Idle Town”を自主リリースする。2018年にリパブリックと契約してEP『Sunset Season』でメジャー・デビュー。“Maniac”などのヒットを経て2020年にファースト・フル・アルバム『Kid Krow』を発表する。同作収録の“Heather”がTikTokでバイラル・ヒットを記録。その後も注目を集めるなか、このたびセカンド・アルバム『Superache』(Republic/ユニバーサル)をリリースしたばかり。