©Katia Temkin

永遠の光を手に入れる鍵は、受け入れること――満たされたポジションから一変した状況でも、彼女は自分自身を愛して生きるよう歌いかける。痛みに溢れた新作の背景にあるものとは?

誰と楽しもうと関係ないでしょ

 約3年ぶりのニュー・アルバムとなる『eternal sunshine』を届けてくれたアリアナ・グランデ。最近では自身のコスメ・ブランドやフレグランス販売、年末に公開予定の映画「ウィキッド」の撮影などに勤しみ、音楽活動とはやや距離を置いているように思えた彼女だが、ここにきて急遽シーンの最前線に舞い戻ってきた。2020年10月にリリースされた前作『Positions』は米英をはじめとする世界各国で1位を記録し、タイトル曲(全米/全英1位)や“34+35”(全米/全英2位)などのビッグ・ヒットを生み出している。その後もウィークエンドの“Save The Tears”“Die For You”でのリミックス共演、デミ・ロヴァートへの楽曲“Met Him Last Night”提供と共演、マライア・キャリー、ケリー・クラークソンらとのクリスマス・ソングでのデュエットなど、単発での動きはあったものの、フル稼働というわけではなかった。というのも、ミュージカル映画「ウィキッド」の準備とリハーサル、撮影などに掛かりっきりで、さらには2025年末の公開に向けた続編の制作も控えているからだ。アリアナ自身も音楽に向き合う時間がないと思っていたそうだが、昨年に勃発したハリウッドの俳優・脚本家組合のストライキにより、急遽まとまった時間を得ることに。それを活かして完成したのが、このアルバム『eternal sunshine』というわけだ。

ARIANA GRANDE 『eternal sunshine』 Republic/ユニバーサル(2024)

 今年1月に発表されたリード・シングル“yes, and?”はすぐさま米英で1位をゲットし、世界のチャートを制覇。マドンナの金字塔“Vogue”(90年)にインスパイアされたハウス・ビートを下敷きに、ゲイ・クラブを彷彿とさせるボールルーム・カルチャー譲りのエレメントが顔を覗かせ、ビヨンセが『Renaissance』で、ドレイクが『Honestly, Nevermind』で、レディー・ガガが“Babylon”で再復活させたLGBTQ直結のハウス・ミュージック愛を迸らせた。アリアナにとってはヴォーギングなコレオで踊った“Be Alright”(『Dangerous Woman』収録)以来の試みだろうか。リミックスには彼女が敬愛するマライア・キャリーも参加し、MVではポーラ・アブドゥルの80年代ヒット“Cold Hearted”のMVを再現したヴィジュアル(元ネタはボブ・フォッシーのミュージカル『オール・ザット・ジャズ』)でポップ・カルチャーの歴史を紐解いている。

 また、その“yes, and?”では、自身のプライヴェートに関するゴシップも見事に牽制してみせた。〈体型についてのコメントはやめて、答えないから〉と歌われるのは、〈痩せすぎでは?〉と囁かれたSNSでの批判に対してだろう。〈他人の話に口を突っ込まないで/私が誰と楽しもうと関係ないでしょ〉というのは、新しい恋人を巡るバッシング騒動に関してだと思われる。ご存じのように、2021年に結婚した高級不動産エージェントのダルトン・ゴメスとは、約2年で離婚。新恋人は妻子のいる「ウィキッド」共演者と噂され(その共演者は後に離婚)、〈家庭を壊した女〉というレッテルが貼られるなど穏やかならぬ状況があるからだ。