NYを拠点に活動している5人組、ビーン・ステラーがファースト・アルバム『Scream From New York, NY』を発表した。ミシガン州出身のスカイラー・ナップとサム・スローカムが高校時代に出会い、NYの大学でナンド・デール、ニコ・ブルンスタイン、ライラ・ウェイアンズとバンドを結成。2022年にデビューEP『Been Stellar』をロンドン発のレーベル、ソー・ヤングからリリースすると、その後にダーティ・ヒットとの契約を発表。プロデューサーに売れっ子のダン・キャリーを迎えて制作されたのが、今回のアルバムだ。NYのバンドだがロンドンのレーベルやプロデューサーと組み、さらにナンドは出身がブラジルだったりと、さまざまなルーツや地域と結びつくバンドのあり方は現代的だと言ってもいいかもしれない。
メンバーの中に生粋のNY育ちはいないそうだが、それでも彼らは最初のアルバムを〈ニューヨークからの叫び〉と名づけ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドからソニック・ユース、2000年代のストロークスやインターポールといったバンドの系譜に自分たちを位置付け、かの地のクールネスを体現している。とはいえ音楽性はどのバンドとも似て非なるものであり、空間系のエフェクトを多用した厚みのあるギター・サウンドはオルタナ~シューゲイザー風で、反復を基調にダイナミズムを生み出すリズム隊はポスト・パンクの影響を感じさせる。ややぶっきらぼうで、ときに熱量高く捲し立てるように歌うサムのヴォーカルも含めて、NYのバンドでいちばん近いのは、90年代に活動したジョナサン・ファイア・イーターを前身に持ち、2000年代以降にインディー・ファンの心を掴んだウォークメンではないだろうか。ファースト・シングル“Passing Judgment”のMVは擦り切れたVHSのような乱れた画質が特徴で、彼らの持つ90年代後半から2000年代初頭の空気感によく似合っている。
“Pumpkin”のような音数の少ない楽曲からはペイヴメントをリファレンスにしていることも感じられて、これはダーティ・ヒットの先輩にあたるビーバドゥービーや、ダン・キャリーが手掛けたウェット・レッグにも通じるもの。唯一の女性メンバーであるライラがヴィジュアル以上にプレイヤビリティの面で強い存在感を発揮していることもとても印象的だ。
また強烈にサイケデリックな“Can’t Look Away”、性急なブレイクビーツを用いた“All In One”など、後半にはよりラディカルで実験精神を感じさせる楽曲が並び、6分近い長尺でウォール・オブ・サウンドを立ち上げるラストの“I Have The Answer”に至るまで、アルバム全体にバンドの強い美意識が貫かれている。
そのなかでも特に耳を引くのがミディアム・バラードの“Takedown”で、この曲は“Fake Plastic Trees”や“Planet Telex”といった『The Bends』(1995年)期のレディオヘッドを連想させるが、当時のレディオヘッドはアメリカのオルタナティヴの影響を強く受けていた。アメリカとイギリスのバンドは常にお互いに刺激を与えながら、ロックの歴史を更新し続けてきたし、音楽シーンのグローバル化が進んで欧米圏以外から世界的なスターが出るようになったいまも、その構図は生きているのだろう。そして、しばらく大人しかった印象のあるNYのバンド・シーンから〈New York Is Wasted, You Start Again〉と宣言し、歩みをスタートさせたビーン・ステラーは、間違いなくその先端に位置するバンドなのだ。
ビーン・ステラー
サム・スローカム(ヴォーカル)、スカイラー・ナップ(ギター)、ナンド・デール(ギター)、ニコ・ブルンスタイン(ベース)、ライラ・ウェイアンズ(ドラムス)から成る5人組バンド。2020年から楽曲の配信を始め、2022年にソー・ヤングからファーストEP『Been Stellar』をリリース。インターポールやフォンテインズDCなどのフロント・アクトを務めたのち、ダーティ・ヒットと契約。このたびファースト・アルバム『Scream From New York, NY』(Dirty Hit)をリリースしたばかり。