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ミン・ヒジンの日本への憧れと常軌を逸したディレクション

そのようなK-POPの原点へのリスペクトがありつつ、総合プロデューサーのミン・ヒジンが、NewJeansは旧態依然としたK-POPから一線を画した表現を意識的に指向していると明言しているように、やはり“Supernatural”でも、その常軌を逸したディレクションが光っている。

1979年生まれのミン・ヒジンは、若い頃から音楽の趣向が周りとは違ったようで、ミドルティーンの頃に出会ったアース・ウインド&ファイアーの『伝説のライヴ・イン・ヴェルファーレ』(1995年)のカセットを、テープが延びるまで聴いていたという。3今は無き六本木ヴェルファーレは、バブル期の象徴でもあるが、当時の彼女はカセットを聴きながら、永井博が描くような隣国の摩天楼を想像していたかもしれない。実際に「POPEYE」のインタビューでも、ブラジル音楽を取り入れたAOR/シティポップや、PIZZICATO FIVEのような渋谷系といった、1970〜1980年代の日本の〈サブカルチャー〉からの影響を公言しているし、豊かであった頃の日本文化に憧れがあったことが窺える。

EARTH,WIND & FIRE 『Live In Velfarre』 Kalimba/avex trax(1995)

“Supernatural”のMVの舞台になったのは、大友克洋による映画「AKIRA」(1988年)のネオ東京のサイバーパンクと、岩井俊二による「スワロウテイル」(1996年)のYEN TOWNのスチームパンクが混じり合ったような世界。所謂〈シティポップ風〉な摩天楼の間を通るハイウェイ。走るトレーラーの上で歌い踊るNewJeans。対象的に、蒸気に満ちたゲットーでたむろするメンバーと若者たち。

現時点ではPart 1が公開されている段階であるが、同世代のクリエイター2人の意識がリンクし、当時の韓国から見た日本を、現代的な目線で見直したような表現に思える。キッチュだがひたすらにクールだ。

 

〈失われた30年〉のJ-R&Bを掘り起こす

“Supernatural”のプロデューサーは、先述の通り250だが、彼とともに“Ditto”や“ETA”、“Hype Boy”といったヒット曲を作ってきたイルヴァ・ディンバーグ(Ylva Dimberg)がソングライターとして参加しており、鉄板の布陣が敷かれている。ただ、この曲のクレジットにファレル・ウィリアムズの名前があることに驚いた人も多いのではないだろうか。そこには理由があり、この曲ではファレルがプロデュースした日本人シンガー、Manamiの“Back Of My Mind”がサンプリングされているからだ。

具代的には、ファレルの〈hey〉や〈come on〉といったボイスサンプルが使用されているのと、ハニとヘインが歌うブリッジパートが“Back Of My Mind”のコーラスパートから引用されている。この2009年という、ジャパニーズR&Bの過渡期にリリースされた楽曲を、NJSをベースにした楽曲に組み合わせているわけだが、それは〈失われた30年〉の間に埋もれてしまった、日本の素晴らしい音楽を知らせるアテンションとしても機能している。

ゲートリバーブのかかったビートと、フィリーヒットと呼ばれる特徴的なSEが印象的で、非常にオーセンティックなNJSを取り上げている“Supernatural”。クラビネットによってファンクネスを付与しているのも少し新鮮だが、やはりバックで鳴っている幽玄なアンビエンスを演出する、モダンな音像のエレクトリックピアノが、現代性を担保しているように感じる。このバランスはさすが250といったところ。

メンバーの歌唱表現も、“How Sweet”を経て更に巧さが増しているし、この歌唱スタイルがNJSに新しさをもたらしている。脱力したブレス表現をマスターしつつあり、NewJeansという哲学を自分たちで定義付け、これが自らで導き出した道だという説得力さえ感じさせられた。